理研ら,室温でスキルミオンを生成する物質を発見

理化学研究所(理研),スイスポールシェラー研究所,スイス連邦工科大学ローザンヌ校らの研究グループは,室温以上でスキルミオンを生成するキラルな金属磁性体を初めて発見した(ニュースリリース)。

スキルミオンは数nmから数百nm程度の大きさの渦状の磁気構造体。最近の研究で,スキルミオンは固体中で独立した粒子として振る舞い,一度生成されると比較的安定に存在し,低い電流密度で駆動できるなど,磁気情報担体としての応用に適した特性を多く持っていることが分かっている。

特に,キラルな結晶構造を有する物質(キラルな物質)で生成されるスキルミオンは,渦の巻き方が結晶のキラリティで一意に決まり,サイズが数nmから200nm程度で小さいため,盛んに研究されている。

しかし,これまでに見つかっているキラルな物質で生成されるスキルミオンでは,生成温度の最高値が摂氏5℃程度。スキルミオンの応用を実現するには,室温以上で安定してスキルミオンを生成する新しいキラルな物質が必要とされている。また,これまでのスキルミオンを生成するキラルな物質の結晶構造は,ある特定の対称性を持つものに限られていた。

このため,多彩な対称性の物質群でスキルミオンの生成を実現し,スキルミオンを生成する材料のバリエーションを増やすことが求められている。

研究グループは,これまでにスキルミオンの生成に使われてきたキラルな物質とは異なった対称性を持ち,強磁性を示すCo10Zn10という物質に着目した。

Co10Zn10にMnを加えた物質を合成し,磁化測定,ローレンツ電子顕微鏡観察,中性子小角散乱などの実験を行なったところ,室温および室温以上の温度で,スキルミオンを生成することが分かった。

今回の成果は,スキルミオンを用いた低消費電力の磁気メモリ素子の実現に大きく寄与するもの。また,今回の発見を契機に,スキルミオンを生成可能な新しい物質群が見つかる可能性があるという。

研究グループでは今後,ダイナミクスをはじめとしたスキルミオンの基礎的特性を明らかにしつつ,スキルミオンのデバイス応用を見据えた研究開発がより盛んになると期待している。

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