九大ら,有機薄膜太陽電池の低コスト化に繋がる反応機構を解明

九州大学の研究グループは高知工科大学と共同で,佐賀県立九州シンクロトロン光利用研究センター内に九州大学が設置しているビームライを使用したX線吸収微細構造(XAFS)の測定により,3-ヘキシルチオフェン(3HT)と塩化鉄を用いた酸化重合の反応機構を世界で初めて明らかにした(ニュースリリース)。

この結果を分子設計にフィードバックすることで,有機薄膜太陽電池の重要な構成材料として注目されているポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)の製造を,分子鎖のばらつきを抑制させ,かつ低コストでの実現が期待される。

P3HTの合成法に提案されている2種類の方法のうち,ニッケル系の触媒では分子の鎖の長さが良く整った高分子が得られる一方で,触媒が高価であるため製造プロセスの低コスト化に課題がある。また,塩化鉄微粒子による酸化重合反応では,安価な塩化鉄と3HTを混合するだけで簡単にP3HTを得ることができる一方で,分子鎖の長さを制御することが困難だった。

塩化鉄を用いた酸化重合反応は環境負荷が少なく安価であるが,不均一反応であることと,磁性を示す鉄を含むために核磁気共鳴を用いた反応追跡を行なうことが出来ず,反応機構は計算化学と重合後に得られたP3HTの構造解析に基づく推測での報告例しかなかった。

塩化鉄を用いたP3HTの酸化重合の反応機構を明らかにすることで,分子鎖の構造のばらつきを抑制するために必要な反応系や分子設計を提案することが可能となる。

X線微細吸収構造(XAFS)測定法は,測定対象となるX線吸収原子の電子状態や局所構造などの情報を得る手法。磁性を示す鉄であっても価数や原子間距離,配位数を精密に評価することができる。

研究グループは放射光X線を利用したXAFS測定により,反応初期において,FeCl3は2価の塩化鉄(FeCl2)に速やかに還元され,その後反応時間の経過にともない,再びFeCl3に酸化されることを明らかにした。この結果は,FeCl3は酸化剤としてだけではなく,触媒として機能していることを示している。

さらに,クロロホルムの代わりにヘキサンを用いて同様の実験を行ったところ,クロロホルムがFeCl2を再び酸化しFeCl3を生成することを強く支持しており,塩化鉄を用いる3HTの酸化重合反応では溶媒の選択がターンオーバー数に大きな影響を及ぼすことを初めて明らかにした。

この研究により明らかにした反応機構を分子設計にフィードバックすることで,塩化鉄を用いた酸化重合では,これまでに達成できていない分子鎖のばらつきが抑制されたP3HTの合成が可能になることが期待される。

研究グループは今後,3HTを構成する元素に着目したXAFS測定を行なうことで,重合反応機構の全貌を明らかにし,得られた知見を分子設計にフィードバックすることで,分子鎖のばらつきが抑制されたP3HTの合成を目指す。

関連記事「東工大ら,ドメインの無い大面積有機薄膜を形成」「山形大,「重ね塗り」による有機薄膜太陽電池の高性能化に成功」「産総研ら,有機薄膜太陽電池の電荷の移動を妨げるメカニズムを解明」「筑波大ら,有機薄膜太陽電池の電荷生成効率の絶対値を決定する方法を確立