JST戦略的創造研究推進事業において,東京大学の研究グループは,導電性インクを用いてプリントできる伸縮性導体を開発し,テキスタイル型(布状)の筋電センサを作製することに成功した(ニュースリリース)。
テキスタイル型のウェアラブルデバイスが注目を集めているが,導電性繊維や導電性糸をウェアラブルデバイスに利用する場合,電極や配線を精密に形成することが課題となっていた。そのため,導電性が高く耐久性に優れたインクを簡単に布地にプリントし,電極や配線を形成する技術の開発が待ち望まれていた。
研究グループは,スポーツウェア用の布地を基材として用いて伸縮性導体を作製し,さらに高性能な有機トランジスタの増幅回路と結合することによって,腕のサポータータイプの筋電センサを試作した。筋電センサは,実効的な計測範囲が4×4cm2,9(3×3)個の電極が2cm間隔で配列されている。
この電極ならびに配線は,新たに開発した導電性インクを1回だけ布地にプリントして乾燥するだけで形成される。このインクは,伸張性に優れるフッ素系ゴム材料を溶剤に溶かして,導電性粒子である銀フレークと界面活性剤を混ぜて作られる。
さらに,布地の裏面にも同様に導電性インクを1回プリントすることで,2層の配線パターンを形成することができる。このとき,布地の裏表の配線間を接続する場所に,あらかじめ小さな穴を布地に形成することで,2層間に電流を流すビア配線が形成される。
このように布地の表と裏に1回ずつプリントするだけで,筋電用の電極,配線,ビアのすべてを形成することができる。さらに,この電極から得られた約1mVという微弱な筋電信号は,有機トランジスタの増幅回路によって,約18倍も大きくできることが示された。
新たに開発した導電性インクを用いて形成したパターンを引っ張りながら導電率を計測したところ,伸張する前の導電率は738S/cm(ジーメンス毎センチメートル)で,元の長さの3倍以上となる215%伸張させた際の導電率は182S/cmだった。これは,150%以上伸張可能なプリントできる導電性物質の中で世界最高の値。
別の研究グループからは,1,000S/cmを超える伸縮性導体が報告されているが,10回以上もの多層コーティングが必要である上,細かい形を作ることができないという課題があった。
この研究成果は,単位時間当りの処理量が高く,また大面積の布地に適応することも容易。そのため,全身を覆うような多点のセンサーシステムをテキスタイル型のウェアラブルデバイスで作製することも可能となるとしている。
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