情報通信研究機構(NICT)は,1.5㎛レーザ光を用いた低軌道衛星と地上間の通信のための超小型光通信機器の開発と宇宙空間における機能実証,さらに,独自に実装した誤り訂正機能を用いた伝送実験に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
伝送するコンテンツの大容量化や観測衛星の高性能化により,周波数資源の逼迫の制約を受けない宇宙光通信技術が将来の技術として期待されている。衛星との通信に光を用いた場合,電波に比べて小さな直径のアンテナ(望遠鏡)でも高い利得が得られ,効率的にエネルギーを伝送できるため,搭載できる通信装置のサイズに制限のある衛星通信において伝送効率を飛躍的に向上させることが可能になる。
しかし,十分なエネルギーをやり取りするために正確に相手を追尾して光を送り続ける必要がある。低軌道衛星は静止衛星などと異なり,地上から見た場合の移動速度が非常に速く,お互いの捕捉追尾に高い精度が要求される。また,地上との通信は,予測することのできない大気ゆらぎの影響を克服することが必要となる。このため,低軌道衛星と地上間の光通信は,衛星間通信や地上と静止軌道間通信に比べ,難度の高い先進的な技術課題となる。
1.5ミクロン光源を用いた光通信は,インターネットなど地上の基幹通信網の光ファイバ通信に用いられており,この波長帯の技術やデバイスを衛星通信に適応できれば,宇宙通信の超高速化を低コストで実現できると期待される。これまでの宇宙光通信ミッションでは,波長0.8㎛や1㎛のレーザ光が用いられてきた。
NICTでは,世界に先駆けて1.5㎛帯の低軌道衛星と地上間の通信技術の基礎研究と装置技術の宇宙環境における実証を目指して,小型光トランスポンダ(Small Optical TrAnsponder: SOTA)を50センチ角の超小型衛星搭載用の通信装置として開発してきた。SOTAは2014年5月に打ち上げられ,衛星バスのチェックアウトに続き,8月以降,軌道上試験と実験を実施してきた。
今回,光通信を用いて,衛星で撮影した地球の画像を地上に直接伝送することに成功した。1.5㎛帯のレーザを用いた低軌道衛星と地上間通信の軌道上環境での実証は世界で初めて。また,50センチ角の超小型衛星に搭載可能な小型で低消費電力(質量5.9kg,消費電力15W)の装置開発を実現した。
さらに,大気ゆらぎによるデータ消失やデータ伝送エラーは光通信特有の問題だが,NICTでは送信(衛星)側の演算負荷が小さく衛星搭載に適した誤り訂正符号(LDGM)をSOTAに実装した。今回,衛星に搭載したカメラによる地球画像の伝送実験を行ない,その結果,伝送路で発生した誤りを訂正し,正しい画像データに復号して受信できることを確認した。
今回の電波以外の手段による衛星通信の実現により,周波数資源の逼迫による制約を受けずに大容量化が可能になることが期待される。また,SOTAは海外の関連研究機関からも多大な関心と実験参加の要望が寄せられており,順次,実験参加機会を提供することで,世界の研究開発をリードするとともに成果の拡大を図るとしている。
【6月5日追記】今回1.5㎛光を使うことになったのは,地上での通信インフラに1.5㎛用の高性能なデバイスが普及したことによる。宇宙開発はスパンが長いため,前回の通信ミッションではこうしたデバイスを使うことができなかった(無かった)という。
使用したレーザは半導体レーザで出力は80mW。反射望遠鏡のような光学系を用いて地上へ伝送を行なった。
今回は確実な伝播性能と誤り訂正符号の検証が実験の主な目的だったため,通信速度は10Mb/s程度,送信に成功した画像データも70kBほど。ただし,今後アップグレードしていくことで1Gb/sくらいは出ることを確認しているという。
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