大林組ら,省電力照明システムを開発

大林組と東京工業大学,ビジュアル・テクノロジー研究所は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「平成24年度戦略的省エネルギー技術革新プログラム」において,「人の感じる明るさ感」を基に照明などの室内の光環境を自動的に制御し,快適性を維持しながら消費電力を60%削減する光環境制御システムを開発(ニュースリリース)した。


オフィス全景

輝度測定カメラ(窓面)

輝度測定カメラ(室内)

 
照明設備による消費電力は,一般的なオフィスビルの場合で全体の3分の1を占めており,ビル全体の省エネに大きく影響する。従来のオフィスなどにおける照明制御は,机上面の照度を部屋全体で一定に保つように調光(光出力の調整)することが一般的だった。

近年,デスクライトで机上面の照度を保ちながら,その他の部分の照度を低く抑えるタスク・アンビエント照明方式が,省エネ技術として普及が期待されている。しかしこの方式は,執務に必要な照度は確保していても,室内の雰囲気が暗く感じられるといった課題があった。このため,人が快適に感じる明るさを維持しつつ,照明による消費電力を効率的に抑制する新たな照明方式が望まれていた。

開発したシステムは,東京工業大学が開発した「人の感じる明るさ感」を数値化する指標「明るさ尺度値(Natural Brightness:NB)」を利用したもの。カメラによって照度(モノに当たる光の量)ではなく,輝度(目に入る光の量)を基準に室内の光環境を自動的に評価・制御することによって,低照度でありながら明るい印象を持つことができる。

同社は実証評価のため,このシステムを昭和電機㈱の入居する神田風源ビルに導入した。同ビルは南西面と北西面がガラス窓となっており,システムはこの2面の輝度をそれぞれ測定する2台のカメラと,室内の輝度を測定する1台のカメラ,そしてこれらのカメラから得た情報を分析するPCで構成されている。

システムはまず,窓面の輝度を情報を読み込み,そこに仮想ブラインドを重畳した画像を作成してまぶしさを判定する。まぶしさがちょうど良い(デスクにいる人に直射日光が当たらない)ブラインドの角度を算出し,ブラインドのコントローラに指令を出す。ブラインドの動作後,室内の輝度測定カメラでの実際の明るさを測定し,目標の輝度を得るために必要な調光率を計算してLEDライトのコントローラに送信する。

ブラインドの動作は3分に一度の割合で行ない,西日だけでなく,近隣の建物からの反射光などにも適応して調整を行なう。また,輝度分析は随時行なっており,急な輝度の変化(雲から太陽が出てきたような場合)を検出すると,即時割り込み制御が行なわれる。

また,このシステムは単にブラインドを開閉するのではなく,太陽の角度によってはブラインドを少し内倒し(逆方向に倒す)にして光を天井に反射するようにしたり,夜間は完全に内倒しをすることによって反射面を室内に向け,室内照明を利用するなど,ブラインドの両面を使いながら光を効率的に利用する。

現在のところ,デスクライトはこのシステムと連携していない(人感センサは搭載しており,離席時には自動消灯する)が,研究グループはデスクライトに無線を取り付けて使用状況を収集しており,デスクライトの使用状況を分析することで,今年度中には連携を実現したいとしている。

なお,使用するカメラは工業用の汎用カメラに,より人の目に近い輝度分析が行なえるようにフィルタを入れたもの。0.1~80,000カンデラの感度を持っており,シャッタスピードを変えながら複数回撮影することで広いダイナミックレンジを得ている。超広角レンズによって大規模なオフィスでも窓面一面につき1台のカメラでフォローできるという。

室内の輝度測定カメラも同じものを使うが,壁や天井,柱などを目標として輝度測定を行なっており,あまり広いフロアだと遠方の測定が難しくなるため,場合によっては複数のカメラが必要になる。画像解析によって1台のカメラでフロアを最大15のグループに分けて調光できる。

今回の実証評価の結果,晴天の日中の消費電力を63%削減できることが確認できた。また,実際にオフィスで働く人々からも「暗い」といった声は聞かれないという。さらにタスク・アンビエント照明方式に比べて消費電力を約30%以上,全般照明方式と比べると約60%も削減することが可能だとしている。

このシステムは,設備制御に標準的なデータ通信を採用しており,後付けによるリニューアルも可能。照明やブラインドのメーカも問わないという。コストは,新築の場合では省エネ効果により約6年で回収できるとしている。今回の実証評価のような,床面積2,000㎡規模のビルの場合,イニシャルコストは約600万円を想定している。

大林組では今後,デスクライトとの連携を含めた制御を目指すほか,NEDOではこのシステムを要素技術の一つとして,ZEB(Zero Energy Building)やZEH(Zero Energy House)の実現を目指す。

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