京大,量子情報通信に適した共振器を開発

京都大学の研究グループは,光ファイバの一部を直径300nmの細さにまで引き延ばしたナノ光ファイバに,光の共振器構造を組み込んだデバイスを実現し,このデバイスを用いて,単一発光体からの光を高効率で光ファイバに結合できることを実証した(ニュースリリース)。

近年,光子を自在に制御することで,盗聴不可能な通信を実現する量子暗号通信や,既存のコンピュータでは解けない問題を解く量子コンピュータの実現に向けた研究が進められている。そこでは特に,人工原子などの単一発光体から発生した光子を,光子の通路である単一モード光ファイバへと結合することが重要な課題だった。

研究グループは以前,光ファイバの一部を直径300nmまで引き延ばしたナノ光ファイバの表面に,単に単一発光体を付着させるだけで,発生した光子を高い効率で光ファイバへと結合できることを見出した。その結合効率は7.4%と,大規模な顕微鏡を用いて得られる2~3%よりも十分高く,発光体の発光効率を考慮すれば,結合効率は20%に達しているという関連研究も報告された。

さらに効率を高める方法として,ナノ光ファイバを微細加工し,光共振器を組み込む方法を理論的に発案した。直径270nmのナノ光ファイバに,集束イオンビームを用いて周期的な溝(深さ45nm,周期300nm)を彫り込むことで,微小光共振器を組み込んだナノ光ファイバの実現に成功した。

さらに,この光共振器内蔵ナノ光ファイバにくわえる張力を調整することで,可視広域で20nm以上と,光共振器の共鳴波長を大きく変化できることを見出した。固体微小光共振器で,このような大幅に共鳴周波数を可変できるデバイスは殆ど報告されていない。これは,ナノ光ファイバの直径があまりにも細いため,ガラスでありながらゴムのように伸縮できることが理由と考えられるという。

さらに,この光共振器内蔵ナノ光ファイバの共振器部分に,単一発光体として量子ドットを付着させ,その発光スペクトルを観察した。その結果,共振器の共鳴波長において,発光強度が2.7倍に増強した鋭いピークが見られた。また,共鳴波長を変化させると,その鋭いピークの波長が追従して変化することを確認した。

これらの結果から,光共振器内蔵ナノ光ファイバにより,単一発光体からの発光が,微小光共振器の効果でさらに効率よく光ファイバに結合出来ていることを実証した。

今回の成果と従来の報告から,共振器の共鳴波長にのみ発光する単一発光体を用いた場合,今回実現したデバイスにより,発光の50%以上を単一モード光ファイバへと結合できると推定されるという。この効率は,共振器の性能を高めることにより,理論的には限りなく100%へと近づけることが可能だとしている。

これについて研究グループは,量子暗号通信や光量子コンピュータなどの実現にむけた最大のボトルネックである,100%に近い効率で光子を発生する,オンデマンド単一光子源の実現にむけた大きなステップだと考えている。また,逆に光子を高い効率で単一発光体へ結合できるため,光子の量子状態を,電子スピンの状態に変換して記録する光量子メモリなどの実現も期待できるという。

また,発光体としては,分子や蛍光蛋白質などさまざまな物質を結合できる。このため,例えば抗体などの生体物質を非常に低濃度で,かつ,顕微鏡などの大がかりな装置を利用せずに検出可能なシステムへの応用なども考えられるといている。

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