東大ら,「軌道角運動量パラドックス」を解明

東京大学と中国・清華大学は,カイラル超流動体における軌道角運動量を数学的に厳密な方法によって解析し,約40 年間にもわたる未解決問題であった「軌道角運動量パラドックス」問題を,従来考えられていたよりも一般化したうえで理論的に解決した(ニュースリリース)。

超流動体(超伝導体)においては,流体の構成粒子(原子や超伝導体中の電子)がペアを組んで動くことによって,流体が摩擦なしで流れたり電気抵抗がゼロになったりすることが知られている。その中でも,液体ヘリウム3などで実現している,特殊な超流動(カイラル超流動)においては,粒子ペアが自らその中心回りに一定方向に回転しており,この自発的回転に関連した物理的性質が世界中で活発に研究されてきた。

しかし,そのような超流動体において,各ペアの回転により生じる超流動体全体の回転量(軌道角運動量)がどのくらいの大きさになるのかという問題は,「軌道角運動量パラドックス」として知られ,約40年間にもわたる未解決問題だった。

従来の理論は何らかの仮定や近似に基づいており,その正当性が曖昧であることがパラドックスの一因になっていた。これに対し,今回発表した理論は,基本的なモデルに対して,曖昧な仮定や近似を用いずに軌道角運動量を厳密に計算することができる。

この理論を用いて計算した結果,一つのペアが持つ軌道角運動量が最小値の1である場合のみ,全体の軌道角運動量が,全ての粒子がペアを組んで回転している場合に期待できる巨大な値と完全に一致することが厳密にわかった。

一方,一つのペアが持つ角運動量が2以上の場合には,ペア毎の角運動量は大きいにも拘わらず,超流動体全体の軌道角運動量はほとんどゼロになることが示された。

これは,これまで理論的取り扱いが困難であった,超流動体を入れている容器に粒子が衝突する影響(超伝導体の試料表面に電子が衝突する影響)を精密に計算することによって初めて得られた結果。この衝突効果は,カイラル超流動体に固有の量子力学的性質であり,その理論的解明は軌道角運動量に関する従来の理解に大きな修正を迫るものだという。

研究グループは,長年の謎であった超流動体における軌道角運動量の問題が解決し,その隠れた性質が明らかにされたことにより,超流動現象の基礎的理解がさらに進展することが期待されるとしている。

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