東大ら,アルツハイマーの進行を光遺伝学で解明

東京大学,米スタンフォード大学,ワシントン大学の共同研究グループは,神経活動がアルツハイマー病の脳におけるアミロイドβ病理変化を強めることを発見した(ニュースリリース)。

アルツハイマー病の脳では,アミロイドβ (Aβ)と呼ばれるタンパク質の断片が「老人斑」として細胞の外に溜まることが,神経細胞が変性・死滅して認知症の症状が生じる原因と考えられている。しかしAβがどのようにして神経細胞から放出され,溜まってゆくのかは十分に分かっていなかった。

アルツハイマー病の脳でAβが早くから溜まりやすい場所は,健康時から神経活動の高い部位に一致することが,最新の画像診断法を用いて示されている。このことから神経活動がAβの蓄積を増やす原動力となっているのではないかと予想されていたが,これを直接証明した研究はなかった。

これまでこのような研究が難しかった理由の1つは,ヒトのアルツハイマー病の病理変化は年単位の長い経過で進行するが,マウスを使用した実験では,数ヶ月の長期間にわたって特定の神経細胞の活動を刺激するよい研究手法がなかった点にあった。

今回研究グループは,遺伝子操作により「チャネルロドプシン」という分子を発現させた神経細胞に光を照射することによって神経活動を高める「光遺伝学」と呼ばれる方法を応用し,慢性的な神経活動の亢進がAβの蓄積を増加させることを実証した。

使用したチャネルロドプシン分子は,最近開発された「stabilized step function opsin」(SSFO)。従来型のチャネルロドプシンは,光刺激後に秒単位の短時間のみ神経細胞の興奮を生じるのに対して,SSFOを用いると,1回の光刺激で30分以上持続的に神経細胞を興奮させることができる。

今回の成果は,神経細胞の活動が,Aβの蓄積を脳において促進することを,マウスを用いて示したもの。この結果は,神経細胞の過剰な活動が長期間続くことが,アルツハイマー病の発症要因の1つとなることを示唆している。しかし,単純に「頭を使えば使うほどアルツハイマー病になりやすくなる」というようなことを意味するものではない。

なぜなら,知的活動にあたって脳の神経細胞がどのように活動するかについては十分に分かっていないことも多く,また長年の知的な活動によって脳の能力が高められていれば,アルツハイマー病で神経細胞が失われる過程で認知機能の低下が遅れる可能性も指摘されている。

一方で,このような結果は適度な休息や睡眠の必要性を支持する可能性もあります。今後アルツハイマー病を理解し,予防法を科学的に追求するにあたって,神経活動や脳機能との関係は,ますます重要な課題となるものと考えられ,今回の研究はその先駈けとして大きな手がかりをもたらすものとだとしている。

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