九大,スパコンにより望遠鏡周囲の気流を可視化

九州大学は,2015年3月に同大研究所で稼動を開始したNEC製のスーパーコンピュータを計算機リソースとして,「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」数値風況予測モデルを用いて,TAO計画に関する大規模な数値風況シミュレーションに成功した(ニュースリリース)。

TAO計画とは,口径6.5mの大型赤外線望遠鏡をチリ共和国北部アタカマ砂漠のチャナントール山頂(標高5,640m)に建設し,ダークエネルギー,銀河・惑星系の起源の謎など天文学の最新トピックスを解明するために集中的に観測を推進することを目指すもので,東京大学が中心となって進めているプロジェクト。

地上からの天文観測において気流は重要な要素となる。例えば気温と望遠鏡の温度の差により発生する陽炎は星像を悪化させる。そのため,TAO6.5m望遠鏡は世界最高水準の天文観測性能を有しているが,それを安定的に発揮させるためには,構造物の形状を最適化し,望遠鏡ドーム内の気流を制御することが必要となる。また,悪天候時における建物への積雪・着雪はその後の復旧作業と観測再開を妨げる要因となる。

今回「RIAM-COMPACT®(リアムコンパクト)」数値風況予測モデルにより,広域スケールの気流解析,および望遠鏡建屋(ドーム)周辺とその内部に発生している複雑乱流場の再現を目的とした狭域スケールの気流解析の2ケースを実施した。この気流解析に用いた地形・建物形状の3次元データは,最新の地理情報システム(GIS)の技術を用いて環境GIS研究所が構築した。

スーパーコンピュータSX-ACEの2ノード(8コア)を用い,約1億点にも及ぶ計算格子数を用いて数値風況シミュレーションを行なった。数値風況シミュレーションによって得られた膨大な数値データの見える化を施し,望遠鏡ドーム内外に発生している複雑な気流の変化(乱流)を再現することに成功した。

今後は,研究で得られた計算結果を詳細に分析し,ドーム内外の気流性状とドーム内の圧力分布(風荷重分布)の正確な把握を行なうとしている。最終的には,ドーム内の気流を体系的に制御する仕組みを確立し,より安定した天文観測を可能にする。

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