東北大,レーザでCNTを加熱して分子制御に成功

東北大学は,カーボンナノチューブ(CNT)1本上で生体分子モーターの運動活性を観察し,レーザ照射によって運動速度を制御する新技術を開発した(ニュースリリース)。

CNTの特長の一つである熱伝導性は特出しており,金や銅より高い熱伝導率が報告されている。このためCNTは,生命科学分野にも応用され始めており,がん細胞の90℃以上のレーザ加熱による死滅なども報告されている。

したがって,もっと細やかに細胞を熱制御できれば,例えば温度を時間的に調整できれば,細胞を不可逆的に死滅させるだけでなく,その前に活性化したり,活性を段階的に変化させるなど,活性操作が期待される。さらには,CNT1本の小さなサイズで熱制御できれば,細胞内の局所部位あるいは生体分子1個レベルまで活性を制御できる,新たな「ナノヒーター」となることが期待される。

研究では,CNT1本を新しいナノヒーターとして利用することを目指し,①生体分子の生きた活性をCNT1本上で検出することと,②近赤外レーザを局所的かつ断続的にCNTに照射し,生体分子活性を制御することを目的に,生体分子として活性を計測しやすいモータータンパクを利用して実験を行なった。

ウサギ骨格筋から精製したミオシンは,筋収縮を駆動させるモータータンパクであり,ATP加水分解のエネルギーを利用して,アクチンフィラメントを動かす。このミオシンをCNT上に失活しないように吸着させ,CNT自体もガラス上に固定した。CNTが1本であることを確認した後,ATPと蛍光ラベルしたアクチンフィラメントを与えると,ミオシンラベルしたCNTに沿ってアクチンフィラメントが滑り運動するのが蛍光観察された。

次に,滑り運動中に,CNTの片端だけをレーザ照射によって加熱した。レーザは,水やタンパク質に影響を与えず,CNTだけを加熱することができる近赤外レーザを用いた。CNT端の熱は,熱伝導率の違いから,CNTおよびその近傍のタンパクだけを局所的に加熱することが予想される。

実際に蛍光顕微鏡下で実験してみると,アクチンフィラメントがCNTに沿って滑り運動する速度が,レーザ照射時だけ高速化することに成功した。速度上昇から見積もられたミオシンの温度上昇は平均で12度だったが(2.7mW 照射時),よく見るとCNT端からの距離から離れるほど,温度上昇が小さくなっていた。

この温度分布を熱伝導近似計算で解析することによって,使用した多層CNTの熱伝導率を見積もることができた。従来,CNTの熱伝導率は,真空中での実験や分子動力学法計算からの報告に限られていたが,水溶液中における報告は世界で初めて。

このように,CNT1本上で生体分子モーター活性を計測した。さらには局所的近赤外レーザ照射によって,モータ活性を可逆的に制御することに成功した。今回は,ミオシンモーターに限ったナノヒーターだが,他のモーター分子やモーター以外の多くのタンパク質活性制御に応用できるという。

将来的には,より細く微小なCNTなどを用いて,さらに局所的な熱制御を行なうことができれば,細胞内の狙った分子1個だけの生きた活性を自由自在に操ることが予見され,生体分子機能メカニズムの解明や,医学的応用など汎用的な波及効果が期待されるとしている。

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