東北大学と北京大学の研究グループは,第一原理シミュレーション計算により,五員環のみから構成され,通常のグラフェンとは全く異なる物性を有するペンタグラフェンの理論設計に成功した(ニュースリリース)。
グラフェンの原子構造はグラファイト(煤)の一層そのもので,炭素原子は六角形に結合したハニカム格子となっている。古来,2次元面は,三角形,四角形,六角形で埋め尽くせるが,五角形では埋め尽くせないことが,タイルの敷き詰め問題として知られている。今回のペンタグラフェンは,この常識を完全に覆すもので,エジプトのカイロ市にある五角形のタイル敷き詰めと同様の形が炭素のナノ構造でも実現するという画期的なもの。
スーパーコンピュータを活用した第一原理シミュレーション計算によって,ペンタグラフェンの原子構造を決定した。また,その機械的,熱的安定性も算定し,実際に作れることを保証した。物理・化学的性質としては,以下の通り,他の材料では見られない優れた特長を見出した。
①電子状態計算により,可視光を全て透過することを確認し,酸化亜鉛に替わる透明半導体が実現出来ることを示した。②機械的性質を検討し,一方向に圧力をかけるとその方向に縮むのはもちろん,それと垂直方向にも縮む性質を持つ。③少量の電子を追加すると超伝導体が実現できる。④カーボンナノチューブでは,グラフェンの巻き方(キラリィティ)によって金属と半導体になり,実際の作成ではその混合物ができるが,ペンタグラフェンはキラリィティに寄らずに半導体となる。
特に②については,つまり,ペンタグラフェンでは負のポアソン比を持つことになる。これはペンタグラフェンを通常の材料に混合すれば圧力をかけても伸び縮みしない画期的な新材料が作れることを意味する。
自然界では未だ見出されていないペンタグラフェンが,実験的に合成されれば,他の材料にはない特長ある上記の新物性が実現できる。炭素だけで出来る新材料であるため,特定国からの輸入に頼るレアメタルの様な資源問題もなく,我が国産業界が独自の開発を行える夢の新材料として期待されるとしている。
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