国立天文台ら,近傍最大級の銀河団の祖先を確認

国立天文台および総合研究大学院大学を中心とした研究チームは,およそ110億年前の宇宙に見つかった2つの原始銀河団(PKS 1138-262および USS 1558-003)をすばる望遠鏡を用いて詳細に観測した。

その結果,これらの原始銀河団が「かみのけ座銀河団」のような近傍最大級の銀河団の祖先に相当する,非常に大きな質量と構造を持っていることがわかった。さらに,これらの原始銀河団におけるガスの重元素量含有率から高密度環境特有の銀河形成過程について新たな知見を得ることができた(ニュースリリース)。

研究チームはこれまで,すばる望遠鏡に搭載された多天体近赤外撮像分光装置 MOIRCS と特注の狭帯域フィルターによる Hα 輝線銀河の撮像観測によって,これらの原始銀河団が集団化途上にあり複雑な銀河分布をしていることや,銀河が激しい星形成活動状態にあることなどを特定している。しかしながら,それぞれの銀河団の詳しい性質の解明には,更なる観測が必要だった。

そこで今回,研究チームは,MOIRCS を用いて星形成銀河の近赤外線分光観測を行なうことによって,銀河団内部の速度構造と個々の銀河の物理状態を調べた。観測の結果,これら2つの原始銀河団が太陽質量のおよそ10の14乗倍もの質量をもっていることがわかった。

これほどの質量を持つ原始銀河団は,近傍宇宙における「かみのけ座銀河団」のような最大級の銀河団の直接的な祖先に相当することが,宇宙の構造形成理論との比較から推定される。

一方,これら2つの原始銀河団は,銀河が密集した銀河団という特殊な環境の中で,個々の銀河がどのように周辺環境から影響を受けて形成されたのかを調べるための理想的な研究対象でもある。そこで研究チームはさらに,分光観測によって得られた複数のスペクトル輝線の情報から,銀河ガスに含まれる重元素の割合を調べた。

その結果,同じ質量の銀河であっても,銀河が密集した原始銀河団に属するものは,同じ時代の銀河がまばらに存在する領域(フィールド環境)にあるものと比べて,ガスの重元素量含有率が高いことが分かった。

研究チームは今後,個々の銀河内部のより詳細な解析によって,原始銀河団における特殊な環境にさらされた特有の銀河形成と成長過程をより明確にしていきたいとしている。

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