大阪大学の開発チームは,光学材料であるタンタル酸ニオブ酸カリウム(KTN)結晶の光偏向器としての機能を利用した,高速な鉛直断面光断層干渉計測システム(En face OCT)の開発に成功した(ニュースリリース)。KTN結晶は日本電信電話(NTT)がこれまでに開発した,光偏向器や可変焦点レンズへの適応が期待される材料。
眼科医療診断向けOCT装置を含め,特定の分野を問わずOCTを使用した医療診断において計測に要する時間を短縮することは,患者に対する負担を軽減することに繋がる。また,OCTの高速化は計測対象の動き(対象そのものや器官や組織の動き)に対して,堅ろう性を向上させる利点がある。
3次元計測の場合,1ボリュームの計測に要する時間が計測のベースとなる平面計測(断層面,または鉛直断面)×ピクセルの数(面の数)で効いてくるため,OCT計測の高速化が重要な課題となっていた。
KTN結晶は,電気光学(EO)効果により高速光偏向器としての特性を持つ。ビームを結晶に入射させ,結晶外側に固定した2つの金属電極の電位差を制御することで,出射ビームの高速走査が行なえる。開発チームはこの特性に着目することで,OCT計測の高速化実現に向けた開発を行なってきた。
開発したKTN光偏向器を用いたEn face OCTシステムは,生体組織へ入射させる光(使用波長1300nm帯)の光軸に垂直な面を計測の主体とする鉛直断面光断層干渉計測(En face OCT)を導入する。光軸方向と垂直なEn face平面をスキャンし,それを異なる深さで重ねあわせることによって3次元画像を取得する。
X軸方向をガルバノミラー,Y軸方向をKTN光偏向器,Z方向を参照ミラーを載せた微動ステージでスキャンする。これにより,従来のタイムドメイン方式のOCTで,一般的に利用されてきた横軸方向走査デバイスであるガルバノミラーのみによる走査に比べ,画像取得スピードが100倍以上向上した。
鉛直断面像の取得レートは500fps,KTN光偏向器によって横軸方向を200kHzで高速走査し,リファレンスミラーで深さ方向を走査することにより,3次元の生体組織の画像が取得することができた。En face OCTの取得レート500fpsは世界最速であり,フーリエドメイン型OCTに匹敵する速度を達成した。
開発グループはOCT計測の新たな医療診断の適用分野として,皮膚科学分野への応用を目指している。OCT計測の高速化・高密度化によって,非侵襲(低侵襲)で皮膚構造を2次元および3次元で解析する技術は,皮膚疾患の新たな診断法として期待される。