大府大ら,光を熱に高効率に変換するフィルムを開発

大阪府立大学と,同大発ベンチャーでめっき技術を提供するグリーンケムの研究チームは,ポリマーの基板上に球殻状の金属ナノ粒子を集めた「光熱変換フィルム」を新開発し,迅速で高効率な光発熱効果を示すことを明らかにした(ニュースリリース)。

研究グループは,数百個~数千個の金属ナノ粒子(金,銀)を,有機分子を介してマイクロビーズに固定した金属ナノ粒子固定化ビーズの分散液を,透明で柔軟性に富んだポリマー(ポリエチレンナフタレート(PEN))でできた4cm角のフィルム上に塗布・乾燥して「光熱変換フィルム」を作製した。

このフィルムに対してソーラシミュレータを用い,擬似太陽光照射下での発熱効果の性能評価を行なった。また,熱電変換ユニットに搭載した際の,光熱変換フィルムの有無による発電特性の評価も行なった。

その結果,金ナノ粒子固定化ビーズを用いた光熱変換フィルムにおいて,疑似太陽光を100秒間照射しただけで初期温度25°Cから約70°Cに上昇することを解明した。真夏の太陽光の下でアスファルトが25°Cから約60°Cに上昇するのに2~3時間かかることから,このフィルムの温度上昇の迅速性を確認した。また,高効率の白色光吸収体として知られる黒体テープを用いた光熱変換フィルムとの比較でも,温度上昇,迅速性の観点から金ナノ粒子固定化ビーズを用いたフィルムの方が高い性能を示すことが分かった。

さらに,比較として,銀ナノ粒子固定化ビーズ,バラバラの金ナノ粒子,透明なポリマー基板のみを用いた光熱変換フィルムの表面温度も同じ条件で測定したところ,金ナノ粒子固定化ビーズが温度上昇においても最大となることを確認した。これは,光応答スペクトルの積分値の大小関係と対応していることから,光熱変換フィルムの温度上昇と相関していることを確認できたと。

複数種類の光熱変換フィルムを搭載した熱電変換ユニットの,電流-電圧特性および電流-出力曲線をプロットした実験においても,金ナノ粒子固定化ビーズを用いた場合が最も高い電圧と出力となっており,温度上昇や光応答スペクトルと対応した結果となっている。特に,透明なポリマー基板のみの場合と比較した時,1ケタ以上の出力の増強が得られることが分かった。

これは,金属ナノ粒子中に閉じ込められた電子状態である「局在表面プラズモン」 がナノ粒子の高密度化により強く電磁気学的な相互作用をした結果,光学的スペクトルが増強・広帯域化することに起因する。

今回の成果は,球殻状の金属ナノ粒子集積構造体を用いた光熱変換フィルムの,太陽光駆動型熱電変換デバイスへの応用可能性を期待させる成果であり,安価で柔軟性に富んだポリマー基板を用いているため,様々な場所に貼り付けて使用できる可能性も期待できるという。さらに,塗って乾かすだけの簡単安価な作製法なので,量産化も容易にできるとしている。

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