大府大,ユーグレナの油脂合成系の代謝改変に成功

大阪府立大学の研究グループは,ユーグレナのワックスエステル(油脂)代謝を解析・制御して,人為的にワックスエステルを改変する研究に取り組み,ワックスエステル合成過程で機能する中・長鎖脂肪酸伸長酵素(3-ケトアシルCoAチオラーゼ;KAT)を同定し,この酵素の発現を抑制することにより,構成炭素長の短いワックスエステルを作ることに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

ユーグレナ(ミドリムシ)は,高濃度のCO2が存在する環境でも光合成によって良好に生育する。ユーグレナを酸素不足の環境にさらすと,細胞内に貯めた多糖類パラミロンを分解して,バイオ燃料の原料となるワックスエステルを細胞の中に作る。ここから作るバイオディーゼル燃料は,車輌用燃料やジェット燃料などの輸送用燃料への利用が期待されている。実用化に向けた研究開発が進められる中で,ワックスエステル生産能力の増強や,用途に合った性質を持つワックスエステルの生産は重要な課題となっている。

ユーグレナがワックスエステルを作るメカニズムには未だ不明な点が多く,全体像は知られているものの,具体的に機能する酵素の分子情報はほとんど明らかになっていない。そのため,これまでワックスエステル合成を制御することは非常に困難だった。今回の研究では,ユーグレナのワックスエステル代謝を解析し,制御することによって,人為的にワックスエステルを改変するための研究に取り組んだ。

研究では,ユーグレナがワックスエステルを合成する過程の中で,脂肪酸を伸長する反応を触媒する3-ケトアシルCoAチオラーゼ(KAT)に着目。ユーグレナには少なくとも6種類のKATがあることを見つけた。KATは,細菌からヒトなどの高等生物にまで広く存在する酵素だが,今回ユーグレナから見つけたKATの機能の推定は困難だった。

そこで,RNA干渉によって遺伝子の発現を抑制することにより,各KATの機能を調べた。その結果,6種のKATのうち,3種がワックスエステル合成に直接関わっていることがわかった。その3種の内訳は,1つの短鎖脂肪酸アシルCoAを伸長するKAT,2つの中・長鎖脂肪酸アシルCoAを伸長するKATだった。短鎖脂肪酸を伸長するKATの発現を抑制すると,ユーグレナが作りだすワックスエステル量が大きく低下し,この反応がワックスエステルを作るための律速となる反応の1つである可能性が示された。

これに対し,中・長鎖脂肪酸を伸長するKATの発現を抑制すると,細胞内のワックスエステル量をほとんど変化させずに,構成炭素長の短いワックスエステルを生産するユーグレナを作りだすことができた。特に効果が顕著であった一方のKAT(KAT1)の発現を抑制したユーグレナで解析を進めたところ,ワックスエステルを構成する脂肪酸の主成分が,通常のユーグレナで炭素長14のミリスチン酸であることに対して,KAT1の発現を抑制したユーグレナでは炭素長12のラウリン酸および13のトリデカン酸だった。これは世界で初めて,ワックスエステル組成を人為的に変えることに成功したもの。

このような改変を行ったユーグレナが生産するワックスエステル由来のバイオディーゼル燃料が持つ性質を調べるたの結果,通常ユーグレナが作るワックスエステル組成に基づいたものと比較して,凝固点が8℃低下して13℃に,融点が12℃低下して-38℃になっており,低温での流動性が向上したことがわかった。

現在日本では,車輌用燃料の軽油に添加されるバイオ燃料量は1~5%。通常のユーグレナ由来バイオ燃料を用いる場合,現在は少量であるため大きな問題とはなっていないが,添加量を多くする場合は,冬季・寒冷地での使用が大きく制限される。研究グループは今回の成果を発展させることで,従来用いることのできなかった環境でのユーグレナ由来バイオ燃料利用が期待されるとしている。

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