NIMSら,超高輝度レーザ照明向けYAG単結晶蛍光体を開発

物質・材料研究機構(NIMS)は,タムラ製作所,光波と共同で,青色LDを励起光源とした超高輝度でハイパワーな白色照明に最適な,温度特性の優れたYAG単結晶蛍光体の開発に成功した(ニュースリリース)。

近年,低消費電力,水銀フリーへの環境側面から,青色LEDを励起光源とした白色照明が急速に普及している。その一方で,LED光源では実現が難しいレベルの高輝度性を求める一部のプロジェクタやヘッドライトでは,青色LDを励起光源とした製品も出てきている。LDはその光学特性から,レンズやミラーでの集光が容易であり,直径数mmの面積に100W級の集光もできる。

しかしながら,励起光のパワー密度を上げていくと,それに比例して放熱が困難になるため,LDを励起光源としたレーザ照明では,従来のLED照明ではあまり問題とならなかった蛍光体の高温時の効率が大きな課題となっていた。従来,この分野で使用されてきたYAG蛍光体は,主として酸化物原料を焼結合成することによってつくられており,蛍光体温度が100℃から150℃以上になると急激に発光強度が弱くなる(内部量子効率が小さくなる)弱点があった。

今回,300℃でも内部量子効率が低下しない温度特性の優れたYAG単結晶蛍光体の開発に成功した。この蛍光体は,シリコンの単結晶作製などで使われるCZ法により,融液から育成した単結晶YAGインゴットをベースとして,プレート状あるいはパウダー状に加工したもの。いずれの場合も室温での内部量子効率が0.9以上で,300℃においてもそれがほとんど劣化しないという優れた温度特性を持つ。

さらに,高強度の光に対し材料自体の温度上昇が小さいという特長も併せ持つ。照明用蛍光体部品として用いた場合,蛍光体の固定部材である低熱伝導率のバインダーや不純物を含まないため,発生した熱が放熱されやすく,温度上昇しにくいため,従来のYAG粉末蛍光体を用いた場合と比較して,より高輝度化,ハイパワー化した照明製品が可能になる。また同時に,放熱機構の簡素化を通じた機器の小型化,コストダウンへの貢献も期待される。

この開発成果は,既に国内で2件の特許を取得,他に5件の国内,海外への特許出願済みとなっている。このレーザプロジェクタ,レーザヘッドライト等のレーザ照明製品をターゲットアプリケーションとした単結晶YAG蛍光体は,タムラ製作所を通じて2015年度末での量産を目指した環境整備を進めている。

なお,開発した単結晶YAG蛍光体は,4月22日~25日にパシフィコ横浜にて開催される光技術総合展示会「OPIE’15」内のレーザーEXPO(主催:レーザー学会)レーザー照明/ディスプレイソーンのタムラ製作所ブースにて展示される(ブースNo.O-32)。また,成果の一部は4月15日に開催される物質・材料研究機構の一般公開においても紹介される予定となっている。