東北大,黒鉛からグラフェン分散液を安全に作製

東北大学の研究グループは,物質・材料研究機構若手国際研究拠点(NIMS-ICYS)と共同で,安全で簡単に黒鉛からグラフェンを剥離して水に溶かす技術の開発に成功した(ニュースリリース)。

グラフェンはもともと水となじまない性質をもつため,応用可能性をひろげるために,グラフェンを親水化し,水溶液に分散させた状態で大量に製造する技術の開発が切望されてきた。これまで,水を含む様々な種類の溶媒を用いて,液体中で黒鉛(グラファイト)に超音波を照射し,ナノメートルスケールのグラフェンを剥離・分散させる技術が開発されてきた。

しかし,これらの製造工程は複雑であり,有害な化学物質を併用することが必要だった。また,グラフェンにたんぱく質を混ぜて溶液中に分散することも可能だが,事前にグラフェンを大量に用意する必要があった。

研究グループは,グラフェンの原料となる黒鉛と,ウシ血清由来のタンパク質であるアルブミンを用いて実験を行なった。黒鉛とアルブミンの重量比をコントロールしながら混ぜて室温で超音波照射を行なった結果,アルブミンがグラフェンの表面を覆い黒鉛から剥離し,100ナノメートルから数マイクロメートルの面積をもつタンパク質‐グラフェン複合体を水中で安定に分散させることが可能であることがわかった。

グラフェンの物性を透過型電子顕微鏡や紫外‐可視分光,ラマン分光,XPSなどにより詳細に解析したところ,タンパク質‐グラフェン複合体の炭素層が原子数層以下であることが確認された。

また,ガラス基板上にグラフェン分散液を滴下して自然乾燥させた薄膜を作製すると,表面にナノメートルサイズの凹凸をもつ機能性基板が形成され,細胞培養に応用可能であることが確かめられた。さらに,ハイドロゲルにグラフェンを混ぜると,ゲルの導電率と機械強度が向上した。このハイブリッド材料は,電気刺激応答性の筋細胞などの分化・成熟を促進する新しい足場材料として応用が期待される。

この研究成果は,東北大の研究グループが開発を進めてきたハイドロゲル‐炭素ナノ材料複合体を作製する研究の中で,炭素系ナノ材料を大量に入手し取り扱うための基盤技術と位置付けることができる。また,タンパク質であるアルブミンでグラファイトからグラフェンの作製を促進することができたため,アルブミン以外にも水溶性のタンパク質が広く候補に挙がってくる可能性がある。

グラフェンを生体材料へ応用するには,細胞毒性試験を含め,これからも多面的な評価が必須だが,グラフェンの安全性が確認されれば,今回の手法は将来的に,ドラッグデリバーや光熱癌治療,体内埋め込み型素子,バイオセンサや生体外組織モデルを構築するうえでの基盤技術になることが期待できるとしている。

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