大阪大学と理化学研究所の研究チームは,2012年に開発した黄緑色の超高光度発光タンパク質Nano-lantern(ナノ・ランタン)を改良して,さらに明るく光る青緑(シアン)色およびオレンジ色の超高光度発光タンパク質の開発に成功した(ニュースリリース)。
ホタルや夜光虫などの生物発光は,外部からの照明光なしに,細胞内の酵素タンパク質ルシフェラーゼが発光物質ルシフェリンを酸化するという化学反応のエネルギーを利用して光を出す。従って,生物発光を利用したイメージングが出来れば,蛍光タンパク質では不可避な強い照明光の副作用を一切排除することが出来るが,生物発光は蛍光タンパク質の1000分の1の明るさしかなく,その応用は困難だった。
研究グループは,発光タンパク質と蛍光タンパク質をハイブリッド化することで,肉眼で確認できるほど明るく黄緑色に光る発光タンパク質ナノ・ランタンの開発に2012年に成功した。しかし,複雑な生命現象の研究のためには,複数の遺伝子・活動状態の同時計測が必須で,ナノ・ランタンの多色化が期待されていた。
今回開発した発光タンパク質は,いずれも従来の発光タンパク質の20倍程度明るく光るため,特殊な超高感度カメラを使わなくとも,肉眼やスマートフォンのカメラでその発光を観察することが出来る。また,3色の色違いのナノ・ランタンが完成したことにより,細胞内の微細な構造の動態や遺伝子の発現を複数同時に計測することが初めて可能となり,万能細胞(ES細胞)の万能性維持に重要な3つの遺伝子の発現の様子を同時に観察することに世界で初めて成功した。
万能細胞の研究では,蛍光タンパク質を用いる際の自家蛍光や光毒性の影響が問題となっていたが,ナノ・ランタンは,外部からの励起光を必要としないため,自家蛍光や光毒性の影響を全く受けない。よって,再生医療の研究において大きな貢献が期待される。
さらに,ナノ・ランタンを改変して細胞内カルシウムを検出できる,シアンおよびオレンジ色の発光指示薬の開発にも成功した。これらの発光指示薬は,外部からの照明光を必要とせず自ら発光するため,光で細胞の活動やタンパク質の機能を制御する光遺伝学的技術との組み合わせが容易。神経活動の操作と計測を同時に行なうことが可能となり,脳のメカニズムの研究への応用が期待される。
関連記事「静岡大ら,遠赤色光を吸収して光変換/蛍光を発する光センサタンパク質を発見」「東大,スプレーするだけでがんを光らせる蛍光試薬を開発」