東大ら,光でナトリウムイオンを排出する仕組みを解明

東京大学および名古屋工業大学を中心とした研究グループは,ロドプシンファミリータンパク質(KR2:Krokinobacter Rhodopsin 2)の立体構造を,2つの異なる状態で決定することに成功し,これらの構造や,大腸菌にKR2を発現させてナトリウムイオンの輸送能を評価する実験から,「KR2がどのようにナトリウムイオンを細胞外に運び出しているのか」を明らかにした(ニュースリリース)。

ヒトから微生物までほとんどの生物は光を受け取り,その光情報に反応して行動するが,多くの動物の場合,この光情報の受容は「ロドプシンファミリー」と呼ばれるタンパク質群によって担われている。その中でも近年,イオンを運ぶ一部のロドプシンファミリータンパク質は「光照射によって任意の神経細胞を興奮,抑制することができる理想的なツール」として,特に神経科学の分野で非常に注目されている(オプトジェネティクス)。

イオンを運ぶロドプシンファミリーには,約40年前から水素イオンや塩化物イオンを細胞の内外に運ぶものが知られており,その他のイオンを運ぶものはないと考えられていた。しかしそのような中,2013年に新たにナトリウムイオンを細胞外に運び出すKR2が発見され,このロドプシンがどのようにナトリウムイオンを運び出しているかを明らかにする研究が進められていた。

また,今回得た立体構造の知見を元にKR2のアミノ酸を改変して,自然界には存在しない「カリウムイオンを輸送する光駆動型のロドプシン」を設計し,作製することに成功した。さらに,哺乳類の神経細胞や線虫を用いた実験により「KR2が光遺伝学のツールとして利用可能であること」を実証した。

今回の結果について研究グループは,「微生物型ロドプシンによる光駆動型ナトリウムイオン輸送」という約40年来に亘る問題に答えを与えただけでなく,ロドプシンの進化に関する新たな手がかり,新規ロドプシンの設計や創製に対する道標,そして神経生物学分野へ新たなツールを提供したと言う点で,幅広い研究分野に大きな影響を与えることが期待されるものとしている。

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