富士通研,2015年度 研究開発戦略説明会を開催

ハイパーコネクテッド・クラウドに向けた光技術

今回の説明会はIoTにおけるビッグデータ制御や映像アルゴリズムが中心であったため光技術に関する展示は少なかったが,2点ほど関連技術を取材することができたので紹介したい。その一つは太陽電池を用いた「ビーコン」だ。ここでのビーコンとは電波を発信する近距離無線通信デバイスのことで,スマートフォンと通信することで端末の位置情報を計測する。GPSの使えない大型店舗などの屋内施設内でのナビゲーションや,クーポン配布などを通じたマーケティングでの利用が期待されている。

有名なところでは,Appleが開発した「iBeacon」があるが,こうしたビーコンは通信用の電源を必要とし,電池や電源回路などの部品によってある程度の大きさになるほか,樹脂製のハードカバーに入っていることから取り付け場所にも制約があった。そこで同社は,ビーコンの電源にシリコン薄膜太陽電池を採用することで電池を不要にし,小型化とフレキシブル性を両立した。

ただし,無線デバイス(Bluetooth Low Energy(BLE))は起動時に比較的大きな電力を必要とし,太陽電池の発電力そのままでは使用できない。そこで発電した電気をいったん蓄電池に蓄え,起動に必要な電力が十分得られていることを確認してから通信デバイスを起動する電源制御が必要となる。


開発したフレキシブルビーコン

フレキシブル(照明にも設置)

蛍光灯への設置例

 

これまでこうした制御には,電源監視回路を内蔵した電源ICのほか,蓄電素子には二次電池など比較的大きなデバイスが必要で,電源監視の遷移動作に必要な電力も蓄電素子に頼っていた。一方でこれらの部品は,その厚みや占有面積が回路全体の大きさを決定し,形状も自由に変えることはできなかった。

同社は今回,無線通信モジュールの起動直前時に,必要な電力が蓄えられたことを認識した後で一時的に電源監視を停止する電源制御技術を開発した。これにより,起動に必要な電力を従来比約1/9の小さな蓄電素子だけで賄うことが可能になった。さらに,電力使用時の電圧変動の軽減により,従来必要だった電源ICも不要となった。

これらの回路とシリコン薄膜太陽電池を,伸縮可能なシリコーンベースの薄膜シートに実装することで,大きさ100mm×26mm,厚さ2.5mm,重さ3gの薄型軽量かつフレキシブルなビーコンを作成することができた。このビーコンは約3000 lxで動作するが,これは電気スタンドの下15cmの明るさと同程度なので,照明の近くに設置すれば問題ない。同社では単価1,000円以下を目標に,2016年中の商品化を目指すとしている。

もう一つの展示は,シリコンフォトニクスを用いた25Gb/sのトランシーバ技術。これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により,技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)と共同で開発した技術で,今年2月に発表したもの(ニュースリリース)。サーバやスパコンの高性能化が期待される。

具体的には,周波数応答性のある光素子を低電圧駆動させながら,送信データの変化を捉えて大きな振幅になるように補う光送受信回路を開発し,従来の半分の電力で25Gb/sの高速動作(1Gb/sあたり5mW)を実現した。この省電力化技術については上記ニュースリリースに詳しい。

今回は富士通研究所がこのプロジェクトで担った配線技術,「ブリッジ実装技術」について詳細な展示を行なった。この技術では省電力化と共にデバイスの面積を1/2に小型化することにも成功しており,新たな高密度実装技術が求められていた。

今回,CPUとシリコン光素子の間に設置される光送受信回路を,Bumpを用いて直接両者の上に橋渡し(ブリッジ)するように実装した(ブリッジの概略図は上記リリース参照)。CPU側は熱影響があるため,一般的なプロセスであるC4 Bumpにより接続し,熱影響が少ないシリコン光素子側はより高密度なMicro Bumpを用いた。この実装技術により,高密度かつ低損失な接続が可能となった。


従来の電気伝送との比較

実装部の拡大

実装部の顕微鏡写真

 

サイズ的には,幅2mm×奥行3mmの光送受信回路とシリコン光素子をブリッジ接続した。この光送受信回路は送信側×6,受信側×6の12chで,帯域は1chあたり25Gb/sとなっている。これを5台並べても幅はわずか45mmほどで,同社の従来製品である電気伝送のトランシーバ(200Gb/s,出力ポートの幅 80mm)と比較しても実装密度の高さがわかる。

同社では今後の課題として,レーザをシリコン上に実装するなどし,この技術を2018年までに実用化したいとしている。