情報通信研究機構(NICT)は,トクヤマと共同で,深紫外波長帯において世界最高出力となる90mW超の深紫外LEDの開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,高出力な深紫外LEDの開発が強く望まれており,窒化物系半導体(AlGaN:窒化アルミニウムガリウム)を用いた深紫外LEDの開発が世界的に活発化しているが,深紫外LEDでは光取出し効率が極めて低いという問題を抱えていた。
今回,NICTらは新たに開発したナノ光構造技術を駆使して,深紫外LEDの光取出し効率を大幅に向上させることで,深紫外波長帯において世界最高出力となる深紫外LEDを実証することに成功した。殺菌効果が最も高い発光波長265nm,電極メサ面積0.1mm2,室温・連続動作において90mWを達成し,実用上要求される水準を十分にクリアーする,これまでにない小型,高出力な深紫外LEDを実現した。外部量子効率としても,発光波長270nm以下における世界最高値6.3%(200mA時)が得られた。
今回開発したAlGaN系深紫外LEDは,結晶欠陥の発生を低減できる窒化アルミニウム(AlN)基板上に作製しているが,AlN基板は一般的に用いられるサファイア(Al2O3)基板に比べ屈折率が高く,これまでは基板表面での全反射により,極めてわずかな光しか外部に取り出すことができなかった。
この問題を解決する新しい技術として,理論・実験両面の工夫により,従来にない光取出し構造を開発した。具体的には,発光波長オーダーの理論的に最適化された周期凹凸構造(フォトニック結晶)に加えて,それより十分に小さなサブ波長構造をハイブリッドした,全く新たな光取出し構造をAlN基板表面(光取出し面)に付加することで,エスケープコーンの拡張(全反射の抑制)とフレネル反射の低減に成功。光取出し効率の向上率は196%と大幅に向上した。
この構造は,光取出し効率の向上だけでなく,素子間の光出力均一性,作製コスト,歩留りの向上などにも配慮した高機能構造であり,難加工性AlN基板を用いた深紫外LEDに対する微細加工技術を確立することで,極めて高精度・高均一なナノ光構造加工に成功した。
この深紫外LEDは,半導体光源特有の低環境負荷,波長選択性,長寿命,メンテナンスフリーなどの特徴を有することはもちろん,小型,高出力,高効率な特徴も備え,殺菌,情報通信・電子産業,環境,医療,流通など,極めて幅広い分野に対するインパクト,応用展開が期待されるとしている。
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