東芝ら,ミュオンを用いて原子炉内の状態を測定する装置を開発

東芝と技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)は,福島第一原子力発電所向けに,宇宙から降り注ぐ宇宙線ミュオンを用い燃料デブリの位置や性質を測定する装置を開発した(ニュースリリース)。

この装置により,約30cm単位で原子炉圧力容器内の状態が把握できる。今後,測定試験,据付工事を経て,2015年度中に福島第一原子力発電所2号機で測定を開始する。

ミュオンは,ピラミッドの内部調査や火山の密度測定などに利用される,物体を通り抜ける能力が高い宇宙線。今回,ミュオンが物体を通過する際に散乱し進路が変わる性質を利用し,米国のロスアラモス国立研究所が開発した測定方法を採用した。

測定では,原子炉建屋を挟み込む形で装置を設置し,散乱する前後のミュオンの軌跡に基づき散乱の角度を解析することにより,燃料デブリの位置を把握する。散乱の角度は,測定対象の原子番号に応じて大きくなるため,燃料デブリ周辺の構造材の影響を受けずに測定することができる。

また,福島第一原子力発電所の高い放射線環境に対応するため,放射線ノイズを除去する電気回路とアルゴリズムを開発した。これらにより,約30cm単位で原子炉圧力容器内の状態を把握することが可能になる。

なお東芝は,2013年からロスアラモス国立研究所と共同研究を始めており,同社が原子炉内計測機器などで培った放射線ノイズの除去技術とロスアラモス国立研究所のミュオン検出技術を組み合わせることでこの技術の開発に至った。

福島第一原子力発電所の2号機では,燃料デブリの取り出し手順や工法を検討するため,燃料デブリの分布状況の早期の把握が求められている。この技術により,燃料デブリの状態を特定することで,デブリ取り出し機器の設計をはじめ,効率的な燃料取り出し方法の選定につながるとしている。

なお今回の装置は,資源エネルギー庁の補助事業「原子炉内燃料デブリ検知技術の開発」の一環として開発した。

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