東北大学大学と独フリードリヒ・シラー大学イエナは,酸化物ガラスにおいて,これまでに報告例のない特異な結晶成長および配向組織形成の観測に成功した(ニュースリリース)。
一般に,セラミックスは原料粉末を混合・焼結することで合成されるが,得られる材料は多結晶体であり,その結晶方位はランダムとなる。多結晶材料において,より優れた特性を得るには結晶の配向性を高めることが必須となるが,通常の合成法で高い配向性を得ることはきわめて難しい。機能性が結晶方位に強く依存するフォトニクスや誘電体分野への材料・デバイス応用が期待されている一方で,結晶化ガラスの配向組織形成にいたるメカニズムはほとんど解明されてこなかった。
研究では,内部組織および結晶情報の同時取得により二次元方位マップが構築可能な電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いて,フレスノイト型 Sr2TiSi2O8が析出した完全表面結晶化ガラスの組織観察を行なった。このフレスノイト型結晶を析出する結晶化ガラスはファイバ形態への成形が容易で,しかも単結晶では実現が困難である放射状の分極配向性を有するファイバ材料として実証されており,さらに単結晶に匹敵する超透明性の付与も可能であることが報告されている。
通常,ガラスの結晶化には,結晶核形成と結晶成長という2段階のプロセスがある。完全表面結晶化ガラスにおいては,結晶化が開始される試料表面に核形成プロセスの痕跡が残されており,EBSD測定では,その特徴である表面近傍の情報の選択的な取得によって結晶化の初期状態を知ることができる。
その結果,試料最表面はフレスノイト型結晶の[0 0 1]方向に極めて高い結晶配向性を有することをはじめて明らかにした。これまではガラスの最表面に発生する結晶核の方位はランダムと考えられていたが,結晶化の初期段階,すなわち核形成プロセスにおいてガラス表面に生成する結晶核に配向が生じることを見出した。さらに結晶成長プロセスが支配的となる内部の組織領域においても,従来と同様に[0 0 1]方向への結晶成長をあらためて確認した。
ガラス-結晶の相転移における結晶方位の配向性に関して,これまでは次のように考えられていた。高温状態において,ガラス中に初期段階で生成するごく小さな結晶核は互いに孤立して存在するために,この段階では配向性のないランダムな方位となるが,結晶が大きく成長する途上で成長速度の速い結晶方位が優先的に領域を獲得しながら成長し,いわば他の方位の成長を阻害するように領域拡大競争を制することで配向性が高くなる。
この研究において,結晶核と結晶成長は両者ともに[0 0 1]方向を有し,配向方向が一致していることをはじめて明らかにした。この結果は,ガラス結晶化のごく初期段階であるエンブリオ(幼核)と呼ばれる核生成においてさえも結晶方位の配向性を決定する要因が存在する可能性を示唆する。今後の進展によっては,ランダム配向が常識と考えられていたナノ結晶粒子が分散する結晶化ガラスであっても,全ての結晶子を配向させることが可能となる合成法の開発に結び付くことが期待される。
完全表面結晶化ガラスは,柱状の単結晶ドメイン(幅:約10μm)がガラス試料の表面から結晶成長を始め,高い配向性を保持しながら試料のすみずみまで全体積を覆うように成長を続けるきわめて希少な材料。この結晶化の特異性は,上述した核形成・結晶成長プロセスにおける配向性の一致がその要因の一つであると推察され,今回の国際的な共同研究により特異なガラス結晶化の機構を解明する重要な知見の一部を得ることができた。
研究グループは今後,これまで不可能とされてきた結晶化ガラスの結晶配向制御を実現し,光を自在に操る光ファイバ素子やスピン熱伝導による集積回路,大規模光触媒プレートなど,革新的な光・電子・熱材料の開発やデバイス応用を目指すとしている。
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