東大ら,ガンマ線観測用23m口径望遠鏡をカナリー諸島に建設

東京大学宇宙線研究所は,スペイン・カナリー宇宙物理研究所と「大口径望遠鏡1号基に関する覚書」を交わし,2015年9月より,カナリー諸島ラパルマに,日本が中核を担う予定の大口径望遠鏡の第1号基の建設・設置を開始する(ニュースリリース)。2016年11月にはこの1号基を完成させ,最初の観測を行なうことを目指す。

東大が推進主要機関の1つとして研究開発計画を進めている国際宇宙ガンマ線天文台CTA(Cherenkov Telescope Array)は,宇宙ガンマ線の高精度観測により,宇宙線の起源,ブラックホール周辺のさまざまな物理現象,また未だに謎の多いガンマ線バーストの解明,そして暗黒物質の検出に挑戦するもの。

現在地上テラ電子ボルト(TeV)ガンマ線観測装置が次々に新天体からのガンマ線を報告しており,その結果,宇宙は想像をはるかに超える高エネルギー現象に満ちていることがわかってきた。「テラ電子ボルトガンマ線天文学」は今や完全に確立し,創成から発展の時代へと移りつつある。国際宇宙ガンマ線天文台CTAは、世界の協力で実現をめざす次世代の公開TeVガンマ線天文台であり,世界28カ国から1,200名以上の研究者が集結し,その建設準備をすすめている。

CTAは,世界で唯一の大規模なTeV ガンマ線望遠鏡として,現在より一桁以上高い感度と優れた角度分解能を達成し,広いエネルギー領域をカバーすることで,1,000を超える高エネルギー天体を研究し,超高エネルギーガンマ線天文学を推進しようという野心的な計画。CTAは,大中小の多数のチェレンコフ望遠鏡群からなり,4桁にわたる広いエネルギー領域を TeVガンマ線で観測する。また,南半球と北半球それぞれに1ステーションずつ設置され,全天の観測を行なう。

TeV ガンマ線は人間の目で見える可視光より12桁も高いエネルギーの光子であり,超新星残骸,ガンマ線バースト,超巨大ブラックホールなど宇宙でおこるさまざまな爆発的現象や,極限的な環境で起こる激しい変動現象など,高エネルギー現象を明らかにする。

23m口径の大口径望遠鏡は,南北のCTA大規模アレイの中央部に,それぞれ4基ずつ設置され,20ギガ電子ボルトから1000ギガ電子ボルトのエネルギー領域でガンマ線観測を行なう。東大を中心とする日本の研究グループが,この最も高い要求性能をもつ大口径望遠鏡を主導的に開発してきた。

この大口径望遠鏡は,23m口径の大きな主鏡により,大気中に突入したガンマ線が引き起こす空気シャワーから,より多くのチェレンコフ光を測定し,高精度にガンマ線を観測できるだけでなく,微弱なチェレンコフ光しか放出できないエネルギーの低いガンマ線まで検出が可能となる。これにより,宇宙初期に生まれた高エネルギーガンマ線天体まで観測の対象を一気に広げる。現在は宇宙が誕生してから66億年経った宇宙しかみえないが,CTAでは宇宙誕生後16億年の若い宇宙が見える。

日本の研究グループは,総面積400m2となる高精度かつ高反射率の分割鏡および分割鏡を制御するアクチュエータによる制御システム,および高量子効率の光センサからなるカメラ部を担当し,科研費特別推進研究のサポートを受けて開発を進めてきた。

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