金沢大ら,体内時計に重要な神経メカニズムを発見

金沢大学と北海道大学,理化学研究所の研究グループは,神経ペプチド・バソプレシンを産生する神経細胞が体内時計の機能に重要な役割を果たし,概日リズムの周期や活動時間の長さを決定することを明らかにした(ニュースリリース)。

ヒトを含む哺乳動物の行動やさまざまな身体機能(ホルモン分泌,自律神経機能,等々)は,約24時間周期のリズム(概日リズム)を刻んでいる。概日リズムは脳内の視床下部の一部,視交叉上核に存在する体内時計により制御されており,例えば1日のどの時間帯で起きて活動するか,大まかなパターンが決められる。

この視交叉上核は約2万個の神経細胞でできている。この神経細胞群は均一な集団ではなく,性質の異なる複数のタイプの神経細胞から成り立っている。各神経細胞は自分自身で概日リズムを刻む能力をある程度は持つが,視交叉上核・体内時計として強固で安定した概日リズムを発振するためには,神経細胞間でネットワークを形成して互いにコミュニケーションを取り合うことが必要。

この約20 年で,各細胞内でリズムを刻む遺伝子・分子メカニズム(細胞時計)についてはかなり明らかになったが,視交叉上核・体内時計の本質である神経ネットワークの動作メカニズムについては,ほとんど明らかになっていなかった。

研究グループは,視交叉上核神経細胞の各タイプがどのような役割を担うのかを明らかにすることが重要と考え,もっとも数の多い(約40%),アルギニンバソプレシン(AVP)という神経ペプチドを産生する神経細胞に注目し,このタイプの細胞だけで細胞時計を破壊した変異マウスを作製し,人為的に時差を起こす実験をした結果,体内時計の機能が弱まっていると考えられる結果を得た。

変異マウスの視交差上核を詳しく調べてみると,神経細胞間コミュニケーションに重要な複数の遺伝子の産生量が,AVP産生神経細胞で激減していた。また,各AVP産生神経細胞が刻む概日リズムが弱く不安定で,周期は長くなっていた。以上の結果から,AVP産生神経細胞において細胞時計がきちんと機能すると,神経細胞間コミュニケーションに重要な分子が産生されてネットワーク機能が高まり,視交叉上核の発振する概日リズムが安定し,適切な周期および活動時間帯で行動するように調節されることが分かった。

これまでAVP産生神経細胞は,体内時計のリズム発振には関与しないと考えられてきたが,今回の結果は従来の見解を覆し,AVP産生神経細胞が概日リズム周期および活動期の決定に重要であることが分かった。研究グループは,AVP産生神経細胞を新たなターゲットとする,効率的に体内時計を調節する技術の開発に繫がる可能性が期待できるとしている。

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