筑波大ら,体内時計を調節するペースメーカ細胞を発見

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構は,米テキサス大学との共同研究により,マウス脳内に体内時計を調節するペースメーカ細胞が存在することを証明した(ニュースリリース)。

約24時間(概日周期)を刻む体内計は身中のほぼ全ての細胞に存在するが,全身の時計を統合するマスタークロックは脳の視床下部交叉上核にある。眼の網膜には周囲の明るさを感知する特別な神経細胞があって,この細胞からシグナルが直接に視床下部交叉上核に送られることよって体内時計が毎日リセットされ,地球の自転と同期している。

このように,体内時計は脳の視床下部,視交叉上核内にある神経細胞によって調節されているメカニズムはすでに知られていたが,具体的にどの細胞群が中心的な役割を担っているのかは明らかになっていなかった。

研究グループは,視交叉上核のみで産生される神経ペプチド,ニューロメジンS (NMS)に注目した。マウスを用いた最新の分子遺伝学的手法を組み合わせることにより,NMSを産生する神経細胞群の体内時計を任意のタイミングで可逆的に操作し,行動リズムをリモートコントロールでオン・オフできる世界初のシステムを構築した。

そしてこの系を用いて明らかにした点から,視交叉上核にある神経細胞の約40%を占めるNMS産生細胞群が,マスタークロックとして機能していることを証明した。ただし,NMSそのものをノックアウトしても何も起こらなかったことから,このプロセスにおいて重要な神経伝達物質は未だ分かっていない。

NMS細胞群が使っている神経伝達物質がまったく未知のものなのか,あるいは既知のものの組み合わせなのかなど,実態をさらに追求していくことで,体内時計の同調現象の全容解明につながる。研究グループは,さらにこの神経細胞群をターゲットとして,概日リズム障害に関連した疾患の診断・治療が可能になるとしている。

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