千葉大ら,天体衝撃波が高エネルギーの電子を効率よく生成する仕組みを解明

千葉大学,東京大学,国立天文台らの研究グループは,スーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションによって,超新星残骸衝撃波を始めとする様々な天体衝撃波で,高エネルギーの電子を効率よく生成することができるメカニズムを明らかにした(ニュースリリース)。

超新星爆発の名残である超新星残骸やブラックホールから飛び出すジェットなどの天体における爆発現象は,電波からX線・ガンマ線にわたる様々な波長の電磁波で明るく輝いている。これらの電磁波は,ほぼ光速で動きまわる電子によって放射されていると考えられているが,この相対論的なエネルギーを持つ電子がどのようにして作られたかは,宇宙物理学の謎の一つとして残されている。

超新星残骸の場合もジェットの場合も,中心天体から宇宙空間に超音速で放出されたガスが星間ガスと相互作用して衝撃波を作るため,相対論的電子は衝撃波において生成されていると考えられているが,その具体的なメカニズムは解明されていない。

粒子間の衝突がほとんど起きない高温で希薄なプラズマ中に衝撃波が作られるため,荷電粒子が加速される現場は非一様な媒質中のプラズマ過程が支配する強い非線形なシステムとなっている。そのため,高性能なコンピュータの力を借りずに粒子加速のメカニズムを理解することは非常に難しいものだった。

研究グループは,超新星残骸衝撃波を始めとする天体衝撃波の波面で磁気リコネクションと呼ばれるプラズマ過程が起きることで,電子が効率的に加速されることを発見した。衝撃波の構造はこれまでもプラズマの第一原理シミュレーションを用いて研究されているが,波面近傍の細かな構造を分解して計算するのは困難だった。

研究グループは,スーパーコンピュータ「京」が有する高を使って100億個のプラズマ粒子の運動を解き進めることにより,これまで探ることができなかった衝撃波の構造を明らかにすることに成功した。

その結果,粒子が散乱体と衝突を繰り返しながらエネルギーを獲得するフェルミ加速のメカニズムが,衝撃波では磁気リコネクションを介して極めて有効に働くことを,大規模シミュレーションによって初めて見出した。磁気リコネクションは太陽フレアやオーロラを引き起こすメカニズムとしてこれまで知られていたが,天体衝撃波における宇宙線加速においても重要な役割を果たすことが明らかになった。

今回の成果は,超新星残骸衝撃波だけでなく,宇宙に存在する様々な衝撃波における粒子加速の解明にも寄与するもの。衝撃波に埋め込まれた反転磁場領域で発生する磁気リコネクションによる粒子加速は,かなり一般性をもって応用できると考えられるという。この新しい加速メカニズムを含め,高エネルギー電子がどのような状況で最も効率良く生成されるかを明らかにすることが,今後の課題となる。

研究グループは今後,スーパーコンピュータ「京」の計算資源をさらにフル活用して,現在その解明を目指した研究に取り組んでいくとしてる。

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