近畿大学の研究グループは,医療品や農薬などの原料として重要なアルデヒドやイミンを得るための,新しい物質変換の方法を発見した(ニュースリリース)。通常,物質変換を行なう際には化石燃料の熱エネルギーを使用するが,今回の手法は太陽光をエネルギー源とする地球環境に優しいもの。
有機化合物は強い酸化条件の下で段階的に酸化され,最終的には極めて安定した二酸化炭素が生成されるため,これまで酸化反応においては,欲しいものだけを得る選択的な物質変換は困難だと言われてきた。目的以外の副生成物を分離するのにエネルギーやコストを要するため,地球温暖化の根本的な原因でもあり,太陽光をエネルギー源とする地球環境に優しい物質変換の手法が期待されていた。
研究グループは,銅アセチルアセトナト(Cu(acac)2)と呼ばれる錯体と,バナジン酸ビスマス(BiVO4)と呼ばれる半導体から成る光触媒を用いて研究を行なった。この光触媒の表面においてCu(acac)2が空気中の酸素を取り込んで集合することを,実験と量子化学を用いたシミュレーションによって明らかにした。
この光触媒とアミンに可視光を照射すると,アミンが水溶媒中ではアルデヒドに,アセトニトリル溶媒中ではイミンに,効率良く選択的に酸化される。この反応は,Cu(acac)2,BiVO4のどちらか一方だと起こらなかった。
これらから,Cu(acac)2とBiVO4を組み合わせたハイブリッド型の光触媒を使うと,物質の酸化反応を二酸化炭素になるまでの途中段階で止め,目的の化合物を手に入れることができることが分かった。
今回の成果により,アルデヒドやイミンなど有用な化合物を,より地球環境に優しい方法でしかも安価に取得できることが考えられるという。たとえば,香料や炎症を抑える薬に利用されているメントールはシトロネラールというアルデヒドから合成されており,また,類似のシトラールはレモングラスなどの精油の成分あるいは香料として使用されている。
他にも,解熱鎮静剤,溶剤,樹脂など様々な用途に利用されると考えられるという。イミンも医薬品などの原料として貴重な化合物。また,「酸化反応を目的の段階で止める」という性質を,他の物質変換に適応することで,アルデヒドやイミン以外の有用な化合物を得ることが期待できるとしている。
関連記事「東工大,光触媒を用いて有機フッ素医農薬中間体の簡便な合成に成功」「NIMSら,広い波長領域の可視光が利用できる水分解光触媒を開発」「パナソニック,光触媒水浄化技術を開発」