JST戦略的創造研究推進事業において,東京大学の研究グループは,室内光で発電し,音で発熱を知らせる,有機集積回路を用いた腕章型フレキシブル体温計の開発に成功した(ニュースリリース)。
有機トランジスタを用いた回路(有機集積回路)は,インクジェットなどの印刷プロセスによって,大面積・低コスト・軽量性・柔軟性を同時に実現できると期待されている。特に最近は,生体向けセンサ・デバイスの開発が進められているが,電力や信号の送受信のために複数のケーブルをつなぐ必要があり,装着感に問題があった。
開発した腕章型フレキシブル体温計は,有機集積回路,温度センサ,フレキシブルな太陽電池とピエゾフィルムスピーカで構成され,人の上腕部に取り付けて体温を常時モニタし,音で発熱を知らせる。この一連の動作は全て,太陽電池で発電される電力で賄うことができるため,電池交換などのメンテナンスは不要。
今回開発した腕章型フレキシブル体温計には次の3つの特徴がある。
1点目は,発熱を検知するセンサとして,フレキシブルな高分子フィルム上に形成可能な抵抗変化型の温度センサを,今回新たに開発した。さらに,発熱と判断する温度を外部から設定するための回路も合わせて実装しており,36.5℃~38.5℃の間で自由に調節できることを実証した。
2点目は,フレキシブルなブザー。ブザーを鳴らすための回路は全て有機トランジスタでできており,音を発生させるスピーカ部分には,ピエゾフィルムを用いた。両者の機械的な柔らかにより,フレキシブルな電子ブザーを実現した。フレキシブルな有機集積回路とフレキシブルなスピーカを用いて音を発生させたのは,世界で初めて。なお,ブザー音の周波数は,人間の耳で聞こえてスピーカの特性も良い3~6kHzに設定した。
3点目は,フレキシブルな体温計を多様な環境で使用可能にするための有機電源回路。太陽電池は,環境の明るさに応じて出力電圧が変動するため,部屋の明るさに応じて電圧を調整する有機電源回路を開発した。この回路により,回路がない場合に比べて使用できる部屋の明るさの範囲を7.3倍に広げられることを実証した。このような電源回路を有機トランジスタだけで実現したのも世界初。
なお,太陽電池とスピーカには,市販のアモルファス・シリコンを用いたフレキシブルな太陽電池と,ポリフッ化ビニリデンを用いた圧電フィルムをそれぞれ用いた。
このフレキシブル体温計は,太陽電池の電力だけで動作するエネルギー自立が可能なセンサーシステムだが,温度以外にも,水分や圧力などのさまざまなセンサに応用することも可能だという。また,ブザー音だけでなく,数値などの情報を音にのせて送ることも原理上可能のため,発熱だけでなく体温の情報を送ったり,多点での測定結果を送ったりするなどの応用も期待できるという。
一方で,太陽電池の電力だけで動作するシステムのため,夜間などの暗い環境では使用できないという課題がある。研究グループは,現在,フレキシブルな充電池やキャパシタの開発も進んでいることから,将来的には,昼間に電力を蓄え,夜間はその電力で動作することも可能になるとしている。
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