早稲田大学は,金属ナノ粒子の電界トラップを用いることで,配線上に一度クラック(亀裂)が生じた場合でも電圧印加によりクラックを自己修復する金属配線を実現した(ニュースリリース)。
近年,フレキシブルデバイスの基本要素として,伸縮配線について様々な研究がなされている。しかしそれらの研究は,導電性材料をゴムなどに混ぜたり,金属を湾曲させた形状として伸縮性を持たせたりするなど,”材料” や “形状” に着目したものが殆どとなっている。 一般的に,これらの導電性材料をゴムに混ぜたものは金属に比べると導電率が低く,また湾曲させた金属配線は繰り返し変形や過剰な変形によって断線するという問題点がある。
そこで研究グループは,金属配線に自己修復機能を付与することによって,高い導電率と高い伸縮耐性を兼ね備えた配線を実現しようと試みた。金属配線として厚さ100 nmの金配線,金属ナノ粒子の分散した液体として半径20 nmの金ナノ粒子分散水溶液を用いた。
まず,自己修復機能を確認するために,ガラス基板上に幅が一定のクラックをもつ金配線を作製した。その構造としては,金属配線とそれを覆うように金属ナノ粒子を含む液体が配置されている。クラック部のある金属配線に電圧を印加すると,クラック部にのみ電界が生じる。この電界により,金属ナノ粒子には,金属ナノ粒子がクラック部に引き寄せられる力(誘電泳動力)が働く。
通常の状態で,金属ナノ粒子はファンデルワールス力や静電反発力を受け液中に分散しているが,電圧の印加により誘電泳動力が大きくなると,クラック部に集められる電界トラップ現象が生じる。そのため,クラック部のみに金属ナノ粒子が集まり,集まった金属ナノ粒子によりクラック部が架橋され,金属配線が修復する。
さらに一度クラックが修復してしまうと,金属配線がつながり電界が生じなくなるため,それ以上過度な修復は行われない。金属ナノ粒子はファンデルワールス力や静電反発力を受け液中に分散しているため,クラック部以外の金属配線部に金属ナノ粒子が吸着することもない。
今回の研究では,修復するための電圧を100 kHz,3.2 V以下の交流電圧とした場合,幅が1.3μm以下のクラックは自己修復できることを示した。 配線のインピーダンスとしては,クラックが生じているときには104Ωオーダであったのに対し,自己修復後はクラックのない金配線と同じ101Ωオーダとなった。
また,電子顕微鏡(SEM)での観察により,電界トラップされた金ナノ粒子がクラック部を架橋していることを確認した。さらに,柔軟基板(シリコーンゴム基板)上での配線の自己修復も,ガラス基板上と同様に可能であることを確認した。
研究グループは現在,さらに大きなクラック幅の修復の実現や,さらに高い自己修復機能を目指して改良を行なっている。 また,現状の構成では液体の封止が必要となるが,液体の封止が構造上,製造上問題になることも考えられるため,金属ナノ粒子をゲル中に分散させた構成での自己修復機能の研究を試みている。