九大,高分子半導体中の電荷が生成する際のメカニズムを解明

九州大学の研究グループは,高分子半導体中の電荷が生成する際のメカニズムを初めて明らかにした(ニュースリリース)。

有機・高分子エレクトロニクスデバイスの主な構成成分である高分子半導体の中でも,ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(以下,P3HT)が注目されている。P3HTは電気を流す能力が高く,溶剤に溶かして塗布することができる。P3HTはチオフェン環と呼ばれる硫黄原子(S)を含むユニットにヘキシル基が結合した剛直な高分子で,チオフェン環が重なり合うような構造を形成している。

これまで,P3HTは光を吸収すると電荷を生成することは知られていたが,そのメカニズムは十分に解明されておらず,実際に使用する際に重要な温度変化による効果などは明らかになっていなかった。

研究グループは,P3HTに光を照射すると,正電荷と負電荷のペア(ポーラロン対)が生成した後,それらが自ら自由電荷(ポーラロン)に分離することを実験的に明らかにした。また,ポーラロン対からポーラロンが生成する過程は,室温付近(約27℃)で速くなることも明らかにした。

温度が高くなるとP3HT中のチオフェン環がパタパタとねじれ始める。研究グループは,このチオフェン環のねじれ運動が室温付近を境に低温では凍結され,高温では解放されることを見出した。以上のことから,チオフェン環のねじれ運動がポーラロン形成に関与する重要な因子であると結論した。

この成果により,ポーラロン対の生成率を高め,チオフェン環のねじれ運動を起こりやすくするという二つの要件を満たした,電荷生成率の高い分子設計が可能になる。有機エレクトロニクスデバイスにおいて高分子半導体は薄い状態で使用され,電極や絶縁層など様々な材料と接することになる。

チオフェン環のねじれ運動は,電極や絶縁層などとの接触界面の影響を受けるため,界面での電荷生成過程も異なることが予想される。研究グループは今後,界面における高分子半導体の運動と光電荷生成過程について明らかにしていく。これらの研究成果は,有機エレクトロニクスデバイスの高性能化につながる基礎科学技術であり,将来的には,より薄いディスプレイの開発や太陽電池の性能向上につながると期待される。

関連記事「東大,高分子半導体においてバンド伝導を実現」「山形大,「重ね塗り」による有機薄膜太陽電池の高性能化に成功」「産総研ら,有機薄膜太陽電池の電荷の移動を妨げるメカニズムを解明」「筑波大ら,有機薄膜太陽電池の電荷生成効率の絶対値を決定する方法を確立