東大ら,赤外線分光により星間空間に大きな有機分子の吸収線を多数発見

東京大学と京都産業大学は共同研究によって,0.91-1.36μm の赤外線波長帯において,世界で初めてとなる25天体を観測した系統的な赤外線による「ぼやけた星間線」の探査を行ない,その結果新たに15本の「ぼやけた星間線」を発見することに成功した(ニュースリリース)。

星間物質の背景に位置する星のスペクトル上には,「ぼやけた星間線」(DIB)と呼ばれる微弱な吸収線が多数検出される。「ぼやけた星間線」は星間物質中の大きな有機分子による吸収線であると考えられている。しかし,「ぼやけた星間線」を引き起こしている有機分子は未だにわかっていない。

その解明のためには,可視光よりも透過率の高い赤外線による観測が重要となる。赤外線波長帯による観測によって,これまでの可視光による観測が困難であった領域でも「ぼやけた星間線」を調べることが可能となり,「ぼやけた星間線」を引き起こしている物質の解明に大きく前進することが期待されている。しかし,分光器の性能などのさまざまな困難により,赤外線波長帯を用いた系統的な観測的研究はこれまでなされてこなかった。

この研究は,両大学の研究者が参加するLIH(Laboratory of IR High-resolution Spectroscopy)によって開発された次世代の高感度赤外線分光器 WINERED(ワインレッド)を用いて,多数の星の高精度な分光観測を行なうことで可能となった。WINEREDはその高い感度によって,口径1.3mと小口径の望遠鏡でもDIBを検出でき,高精度な星の分光観測を初めて可能にした。

研究グループは今後,これまで観測が難しかった分子雲などの減光の大きい多様な環境において,今回発見した赤外線波長帯の「ぼやけた星間線」を調べていくことで,大きな有機分子の生成過程,さらには宇宙における「生命の起源」の解明につながると期待している。

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