農工大ら,バイオ燃料実現のカギとなるオイル高蓄積珪藻の全ゲノムを解読

東京農工大学,仏École Normale Supérieure,産業技術総合研究所,電源開発の研究グループは,オイルを高蓄積する海洋珪藻Fistulifera solaris の全ゲノムを解読し,オイル合成の代謝経路を明らかにした(ニュースリリース)。この成果は,微細藻類のオイル蓄積メカニズムの解明に役立つことから,今後,バイオ燃料生産性の向上が期待される。

光合成を行なう微細藻類が生産するオイルを用いたバイオ燃料生産は,二酸化炭素の排出削減効果が見込め,さらに食糧との競合が起こらない等の利点を有している。これらのことから,社会の持続的成長を支える再生可能エネルギーの一つとして注目されている。

研究グループでは,最大のオイル蓄積性を示す微細藻類として,珪藻Fistulifera solaris JPCC DA0580 株を獲得している。これまで報告されている多くのオイル蓄積微細藻類は,細胞増殖が終了した後にオイル蓄積を行なうのに対し,F. solaris は細胞増殖しながら迅速に大量のオイルを蓄積することができ,世界トップレベルのオイル生産性を示すが,その生物学的メカニズムは解明されていなかった。

当初,微細藻類が異質倍数体ゲノム(異なる染色体対が細胞内に共在するゲノム構造)を有する事例は知られていなかったため,得られた遺伝子配列からゲノム構造を解析することは困難だった。研究グループは,バイオインフォマティクスの手法を適用しゲノム構造の再構築を試み,最終的に42対の染色体,約2万個の遺伝子を持つことを明らかにした。

更に,オイル合成に関与する重要な遺伝子を多数特定し,それらが活性化するパターンを解析した。その結果,意外にも,この株はオイルを蓄積しながらも,同時にその一部を分解し,細胞増殖のためのエネルギーを得ている可能性を突き止めた。この特徴的な遺伝子発現パターンが,この株の迅速かつ大量にオイルを蓄積する性質を実現していると考えられるという。また,微細藻類では初めて,異質倍数体ゲノムを持つことも発見した。

研究グループは今後,この研究成果である全ゲノム情報の活用により,プロテオーム,メタボロームといったマルチオミックス解析に展開していく。また,この研究で絞り込まれたオイル蓄積に関連した遺伝子を標的とした遺伝子組み換え珪藻を作出することにより,効率的なバイオ燃料生産が実現できるとしている。

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