北大ら,植物が葉緑素を虫から身を守るために利用していることを発見

北海道大学,日本曹達,チューリッヒ大学,京都大学の共同研究チームは,植物がもつ酵素のクロロフィラーゼが細胞内の液胞や小胞体に存在することを明らかにし,さらに,植物の細胞が壊れると直ちに疎水性(水に溶けにくい性質)の葉緑素(クロロフィル)を親水性(水に溶けやすい性質)のクロロフィリドに変える活性をもつことを見出した(ニュースリリース)。

また,遺伝子組換え技術によって,クロロフィラーゼの細胞内での含量を増やすと,その葉を食べた後に死亡する幼虫(ハスモンヨトウ)の比率が高くなった。さらに,クロロフィリドを幼虫のエサに混ぜると,幼虫の成長が抑えられた。また,クロロフィリドは葉緑素に比べて,幼虫の腸内に吸着しやすいこともわかった。

クロロフィラーゼは,100年以上も前から存在が知られていたものの,植物にとってどのような役割を担っているかは不明だったが,これらの結果から,植物は,昆虫の幼虫に食べられた時に,葉の中に大量にある葉緑素をクロロフィリドに変換することによって,自らを防御している可能性がある。

クロロフィリドは,植物がもつ他の防御物質と比べると昆虫の成長を阻害する活性が弱く,クロロフィリド単独では,植物が身を守るのに十分ではない。しかし,クロロフィリドの素となる葉緑素は植物細胞内に大量に蓄積している物質なので,研究グループは,植物がこのような物質を無駄なく少しでも有効に使って,防御に役立てているのではないかとしている。

この研究では,葉緑素という本来は光合成のために使われている化合物を植物が防御に利用しうることが示された。研究グループは,将来的には,植物がもつ多彩な防御応答の全容解明や,その多様性の解明につながると期待している。

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