東工大ら,ファイバレーザを用いた二光子励起蛍光顕微鏡を実現する色素を開発

東京工業大学と山口大学らの研究グループは,二光子励起蛍光顕微鏡の感度と操作性の大幅な向上,システムのコストダウンを実現する新規蛍光色素の開発に成功した(ニュースリリース)。

二光子顕微鏡は,生きている動物の脳や臓器の内部を,手術によって切開することなく観察出来るほか,高解像な三次元画像を得ることにも優れている。さらに造影剤として有機蛍光プローブを用いることで,動物に対する毒性を抑えることも可能であり,X線やCTよりも安全な診断法になると期待されている。

しかし,観察可能な深さが未だ最大1㎜程度であり,X線やCTなどに比べ劣ることと,光源のチタンサファイアレーザが 2億~3億円と高価であり,かつ気温の変化や湿気に弱いため空調・温調の整備された部屋を要し,さらに光軸調整などメンテナンスにも多大なコストがかかることがその進化を妨げている。

こうした問題を解決するために,蛍光プローブ色素自体の性能向上と,新たな励起光源として安価で操作性に優れたファイバレーザ(発振波長1050nm)の導入が提案されている。特にファイバレーザは,低予算で通常の蛍光顕微鏡を二光子励起顕微鏡へとアップグレードでき,また空調設備やメンテナンスコストが不要になるため,システムを2,000~3,000万円程度で市販できると試算されている。しかしこれまで,1050nmで励起可能かつ高効率な二光子励起発光色素はほぼ存在していなかった。

研究グループは,これまで利用されてきたπ電子系発色団と比べて,高い吸光度と長波長領域の吸収を示す多環式芳香族化合物であるピレンに電子受容性基(アクセプター)を導入した色素PY(ピレン誘導体)を設計し,簡便な合成法を確立した。

開発した色素は「生体光学窓」と呼ばれる生体組織の光透過性のよい波長領域(650~1100nm)で強く光を吸収(色素を励起)し,高効率で発光する。二光子吸収効率に相当に相当する二光子吸収断面積は,950nm付近で1100GM,そして1050nm付近においても,380GMという値を示した。

この色素をイメージングに用いたところ,従来の汎用色素と比べて20倍以上の感度が得られた。具体的には,950nmの励起光源を用いてミトコンドリアの観測を行なったところ,従来色素の10分の1未満のレーザパワーで,同等のイメージングが可能であることがわかった。また,ファイバレーザを用いた場合でも10mW以下でイメージングが可能ということもわかった。

これは,非侵襲的かつリアルタイムの病態診断法として期待される二光子励起蛍光顕微鏡の医療現場での実用化を大きく加速させる成果。これまで二光子励起蛍光顕微鏡は,生体組織の深部を観察するのに優れた性能を有する一方,蛍光プローブと光源の性能・種類に限りがあったため,観察能力の限界とコスト面の問題があり,実用化が足踏み状態だった。

研究グループでは,色素のさらなる高性能化を進めるとともに,実際に1050nmの光源を用いた顕微鏡システムの開発を行なっている。1050nmのファイバレーザは,すでにいくつかの日本の企業で実用化されており,日本のテクノロジーの英知を結集したシステムを完成させ,世界の医療現場に届けたいとしている。

関連記事「自治医大ら,肥満に伴う代謝異常とリゾリン脂質の関わりを二光子顕微鏡により解明」「基生研ら,2光子イメージングを用いて動物が1個の神経細胞の活動を意志で操作できることを証明」「国立遺伝学研究所,新生児マウスの大脳皮質で神経回路が成長する様子を観察することに成功