ブラザー工業は,映像の見やすさと使いやすさ,装着感を改良した片目タイプのヘッドマウントディスプレイ(HMD)「AiRScouter」の新モデルを発表した(ニュースリリース)。価格は未定。来年度の発売を予定している。
同社は2012年6月よりHMD「AiRScouter WD-100G/100A」を販売しているが,これはその後継モデルとして開発したもの。主な改良点として,液晶ディスプレイの解像度の向上(1,280×720,現行モデル:800×600),ヘッドバンドとフレキシブルアームによる自由度の高いディスプレイの位置設定,そしてHDMI入力を追加した。
現行製品は専用眼鏡フレームを利用していたため,裸眼の人にとって装着感が気になる一方,眼鏡を使用する人は専用のフレームを使用しなくてはならず,使い勝手が今一つという問題があった。新モデルはこの眼鏡フレームを廃し,カチューシャ型のヘッドバンドからフレキシブルアームを介して取り付けることで,視界の好みの位置に画面を配置できるようにした。また,ヘッドバンドの代わりにヘルメットに取り付けて使用することもできる。
同社のHMDの特長として,現行製品でも採用されている焦点距離を変更できるピント調整機能の採用がある。これは眼球内に結像する焦点の位置を前後させることで,映像を投射する位置を手前(30cm)から奥(5m)まで調整することができる機能。これにより,例えば手元の作業ならばマニュアルの映像を手前に,遠くの作業なら奥に表示することで,目のピントを変えずに作業を進めることができるため疲労が少ない。
液晶ディスプレイに表示された映像はミラーを介して目に入射するが,この際にハーフミラーを用いて映像に背景を透過させる(シースルー)タイプと,透過させないタイプとを選択することができる(使用中の随時切替は不可)。
同社は以前より産業用途に向けたHMDを開発・発売しているが,ユーザの要望として多かったのが入力インタフェースにHDMIを設けることだったという。他社のシースルー型HMDの多くはインタフェースにUSBを用いており,例えば作業手順を収録したDVDなどを見たい場合,一度PCを介するなどの面倒があった。ユーザの多くは「普通のテレビ」感覚で使用できるHMDを求めているという調査結果から,今回HDMIの採用が決まったという。
同社ではこのHMDを,離れた場所からの教育やトレーニング,医療機器のサブモニタとしての利用などを想定している。特に超音波診断装置などの医療機器は高解像度化が進み,出力にHDMIを用いる機器も増えている。例えば医療現場では,血管に穿刺する際に超音波画像を見ながら処置することがあるが,こうしたケースで視線をそらさずに作業が可能なHMDは威力を発揮すると考えており,医療向けを大きな市場の一つとして捉えている。
他にも,熟練工の目線で作業を見ながら自らも練習することで,高度な技術や伝統文化の習得などにも使えるのではないかとしている。より大きな分野ではセキュリティ・メンテナンス業務などでの活用展開を想定している。画面を見ながら両手で作業ができるため,情報を確認する際に大きく視線を動かす必要がなく,作業効率の向上やミスの防止に貢献するとしている。