原研ら,核融合炉でトリチウムを効率的に回収する新たな触媒を開発

日本原子力研究開発機構(原研)と田中貴金属工業は,核融合炉の実現に向け,トリチウムを回収するための新たな疎水性白金触媒の開発に成功した(ニュースリリース)。

核融合炉では,トリチウムは重水素とともに燃料として使用する。トリチウムは希少な物質であり,核融合炉内では,触媒反応を利用してトリチウム水として濃縮し,最終的にトリチウムガスの形で回収するシステムが必要となる。

トリチウム回収に使用する触媒は,白金などの貴金属をベースとした「疎水性貴金属触媒」と呼ばれるが,日本では高分子から作製された疎水性貴金属触媒が,新型転換炉ふげんの重水精製に使用された実績がある。しかしこの触媒は,放射線に対する脆化や耐熱性に関する課題が有り,高濃度のトリチウム水からの回収が必要となる核融合炉への適用については技術的な課題を解決することが必要だった。

そのため,原研と田中貴金属工業では,無機物質をベースに疎水化処理を施すという新たな触媒作製法を開発した。その結果,耐放射線性の目安となる530kGyの放射線照射に対して性能劣化がないこと,また通常使用される温度の70℃を大きく上回る600℃超の耐熱性確保にも成功し,これまでの技術的課題を解決した。さらに,この方法で作製した触媒は,従来の約1.3倍に相当する世界最高の交換効率を達成することも確認した。

これにより,この触媒を液相化学交換プロセスに適用させることで,トリチウム水からのトリチウム回収システムの信頼性向上と高効率化に関して,大きな技術的ハードルを越えられる見通しが得られたとしている。

さらに,この触媒に適用している疎水性白金触媒の製作技術は,核融合研究のみならず幅広い分野への応用も期待でき,水素酸化触媒に適用した場合には,室温でも水素の効率的酸化が可能であることを実証した。また,この触媒は上記の脆弱性を解決したことで,原子力分野以外の一般水素取扱プラントの安全性向上にも寄与できるという。

この触媒は新規の手法で作製されているため,開発グループは実用化に向け,同一の条件で長期間繰り返した際に性能の低下が見られないことを確認する,長期性能安定性などの着実な確認試験の進展が今後の課題だとしている。

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