東工大,火星地下に新たな水素の貯蔵層を発見

東京工業大学大学は,火星隕石の水素同位体分析に基づき,火星地下に新たな水素の貯蔵層が存在することを発見した(ニュースリリース)。水素貯蔵量は過去に火星表面に存在した海水量に匹敵し,現在は地下に凍土あるいは含水化した地殻として存在していることを突き止めた。

水の主成分である水素の同位体組成は,惑星表層水の歴史を知る上で優れた化学的トレーサーだが,二次的変質や分析時の汚染の影響を受けやすいため,これまで信頼性の高い分析が行なわれていなかった。臼井助教は米航空宇宙局(NASA)ジョンソン宇宙センターとの国際共同プロジェクトにより,二次イオン質量分析計を用いた低汚染での水素同位体分析法を開発,火星隕石の衝撃ガラスに含まれる微量な火星表層水成分の高精度水素同位体分析に世界で初めて成功した。

衝撃ガラスとは,微惑星など小天体の衝突による衝撃で形成されたものであり,衝突の影響により火星大気・表土成分が混入していることが示唆されている。この衝撃ガラスには火星大気や表層成分が含まれていることが知られていたが,その表層成分に含まれる水素量が非常に少なく,従来の分析法では高精度な水素同位体分析が困難だった。

今回の研究で、一見すると乾燥した砂漠のような惑星である火星に,現在でも大量の水素が氷(H2O)あるいは含水鉱物(OH 基)として地下に存在していることを示した。水素は重要な生命必須元素のひとつであるため,この地下の水素を利用した火星生命が,紫外線や宇宙線の影響を逃れるかたちで存在している可能性が示唆される。

火星はかつて液体の水が海として存在するほど温暖で湿潤な惑星だったが,その水が現在「どこに」「どのように」「どれくらい」存在しているかは惑星科学における大きな謎だった。研究グループは火星の地下に現在でも大量の水素が貯蔵されているという研究成果について,将来の火星生命探査・有人探査計画の策定に強く反映されることが期待されるとしている。

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