生理研ら,脳が素材表面のテクスチャを識別するメカニズムを解明

自然科学研究機構 生理学研究所および理化学研究所のグループは,ヒトと近縁な種であり高度に視覚機能の発達したマカクザルがテクスチャを見ているときの脳活動を計測し,得られた活動が,以前米国の研究者の開発したコンピュータ上のモデルにより部分的に説明できることを明らかにした(ニュースリリース)。

私たちの持つ重要な視覚機能の一つに様々な素材(木材,金属,布など)の表面のテクスチャを識別する能力がある。この機能が脳内のどのような働きで実現されているのか,これまで多くは知られていなかった。

私たちが目にする多くの物体の表面には,様々なテクスチャが存在し物体固有の質感を生み出す。テクスチャを識別する視覚の機能は,物体の素材の判断(木材,金属,布など)や,物体の状態の判断(硬い,重い,新鮮である,など)に貢献する重要な働きをしている。

しかしこれまで,視覚入力が脳内でどのように処理されてテクスチャの識別が行なわれ,素材の認知に繋がっているのか,そのメカニズムについてはあまり知られていなかった。そこで,研究グループではヒトと近縁な種であり高度に視覚機能の発達したマカクザルを用い,様々な素材から得た多数のテクスチャ画像をサルに見せた時の大脳のV4野と呼ばれる領域の神経細胞の応答を調べた。

その結果,V4野の神経細胞は特定のテクスチャ画像に選択的に応答することが分かった。そしてこれらの細胞応答は,「テクスチャ合成」モデルと呼ばれる以前米国の研究者が開発した画像処理の工学的手法(Portilla & Simoncelli 2000)で用いられる画像特徴量の組み合わせにより部分的に説明できることが明らかとなった。また,この応答はヒトがさまざまなテクスチャを見分ける能力とよく対応していることも分かった。

この研究は,大脳の神経細胞がどのような画像特徴にもとづいてテクスチャを見分けているかを初めて示した研究であり,テクスチャの知覚やそれに基づく質感認知のメカニズムの一端が明らかになった。また,この研究の成果はヒトと同じように物の質感を見分ける機械を作る上でも,役に立つ示唆を与えると考えられる。

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