理研,XFELにより固体の光電子スペクトルの時間分解計測に成功

理化学研究所(理研)と独キール大学,自然科学研究機構分子科学研究所,高輝度光科学研究センターらの共同研究グループは,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」から得られる硬X線とフェムト秒光学レーザを用いたポンプ・プローブ型の硬X線光電子分光法により,固体試料構成元素の内殻光電子スペクトルの時間分解計測に成功した(ニュースリリース)。

光電子分光法は,測定対象の物質に一定エネルギーの電磁波をあて,光電効果により外に飛び出してきた電子(光電子)の運動エネルギーを測定し,物質の電子状態を調べる手法。しかし,XFELは,パルス幅が極めて短いうえ強度が大きく,測定対象物質から放出される光電子群が空間電荷効果をもたらし,光電子のスペクトルに悪影響を及ぼす。

共同研究グループはこれまで,SACLAからの超短パルス自由電子レーザ光を用いた硬X線光電子分光法を,物質内の過渡的な超高速現象の研究に有効活用するための技術を確立し,硬X線とフェムト秒光学レーザによる空間電荷効果の影響を調べ,それを制御することを目指してきた。

今回,ポンプ・プローブ型の時間分解硬X線光電子分光法(trHAXPES)を確立し,空間電荷効果の影響が極めて少ない固体試料構成元素の内殻光電子スペクトルを得ることに成功し,それらが大型放射光施設「SPring-8」で得られる光電子スペクトルに比べて同水準であることを確認した。

trHAXPESによって,従来困難であった固体の深い層にある構成元素の選択的かつ時分割的調査や,電子状態の過渡的な超高速現象の観察が可能になる。また,trHAXPESによる空間電荷効果の時間分解計測にも成功し,その時間依存性から,ポンプ光とプローブ光の同時照射時刻を高精度で見いだせることを突き止めた。同時照射時刻からのスペクトルなどの変化を調べると,測定対象物質の外部刺激に対する応答性などの性質を知ることができるとしている。

具体的には,光誘起相転移現象,物質の界面における電荷移動現象や,動作中の半導体デバイスの電子状態を観察するオペランド計測などが期待できるという。原理的には,角度分解測定・偏光依存測定・雰囲気制御測定に時間分解測定を組み合わせることも可能と考えられるとし,今回の成果が,物質科学の基礎研究に貢献すると期待している。

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