山形大,多層構造を持つ低分子塗布型有機EL素子を開発

JST戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)の一環として,山形大学の研究グループは,多層構造を持つ低分子塗布型白色有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)の開発に成功した(ニュースリリース)。

次世代のフラットパネルディスプレイや照明を製造する過程において,印刷技術を用いた低コストな塗布型有機ELが注目されている。実用化に向けた課題の1つである発光効率の向上には,異なる有機材料を積層し,電荷輸送や発光といった機能を各層に分離することが有効となる。

しかし,塗布により有機材料を積層するには,塗布溶媒による下層の再溶解を防ぐ必要がある。したがって,これまで下層に使用できる材料は,耐溶媒性に優れた一部の高分子材料に限られ,高純度化や分子構造の制御が容易な低分子材料でも積層構造を形成する技術が望まれていた。

研究グループは,17種類の低分子有機EL材料を薄膜(30nm)にしたときの溶解性を詳細に調べた結果,分子量の増加とともにアルコール類への溶解性が減少し,分子量800程度を閾値として不溶化することを明らかにした。

そこで,アルコール(2-プロパノール)に不溶性を示した低分子13と16をホスト材料として「発光層」を形成し,その上層に低分子電子輸送材料(BPOPB;ビス ダイフェニルホスフィンオキサイドフェニル ベンゼン)を2-プロパノールを用いて塗布成膜して,「電子輸送層」を形成した。

「電子輸送層」と「発光層」の積層構造薄膜の表面に,イオンビームを照射して,エッチングと飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)を行なって薄膜の深さ方向の組成を測定した。その結果,発光層成分の再溶解が抑制された積層構造が形成されており,2つの層が混ざり合うことなく積層されていることが明らかとなった。

上記の電子輸送層と発光層の積層構造を用いて,塗布型白色有機EL素子を作製したところ,輝度100(cd m-2)時に世界最高水準の電力効率34(lm W-1)を示した。さらに,半球レンズを用いてガラス基板と空気界面で全反射していた光を取り出すと,市販の蛍光灯やLED照明に匹敵する76(lm W-1)まで高効率化に成功した。

この研究成果より,低分子有機EL材料を塗布により積層する技術が確立できた。低分子材料は,高分子材料よりも材料の高純度化や分子構造の制御が容易であるため,塗布型有機EL素子の高性能化に向けた材料開発が加速されることが期待されるという。

研究グループは今後,塗布により複数の有機ELユニットを積層した素子構造を形成することにより,高輝度時の発光効率の低下抑制や長寿命化を実現し,塗布型有機ELの早期実用化を目指すとしている。

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