筑波大ら,半導体中の電子がレーザによって励起する様子の実時間観測に成功

筑波大学は,独ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン,米カリフォルニア大学バークレー校,米ローレンスバークレー国立研究所との共同研究により,半導体中の電子が光によって励起する様子を実時間で観測することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

半導体物質中の電子は,普段は原子に束縛されており,動いたり電流に寄与したりすることはできない。しかし,半導体に光が照射されると,一部の電子が光エネルギーを吸収し,束縛から解放されて(バンドギャップを越えて)物質中を移動できるようになる。

これら自由に動くことができるキャリア電子によって,半導体は導電性を持ち,電圧を加えれば電流が流れるようになる。この性質を利用すると,エレクトロニクスの中心素子であるトランジスタのように,光が照射されるときだけ電流が流れるスイッチとして働かせることが可能になる。

光による導電性の変化は100年も前から知られていたが,あまりに速く起こるため,その変化の様子を直接観測することはできなかった。

研究チームはまず,レーザから発生した可視光の非常に短くて強いパルス光をシリコン結晶に照射し,電子の励起を引き起こした。続いて,さらに短い数十アト秒のX線パルスを照射して,はじめのレーザパルス光によって電子が励起する過程のスナップショットを撮影した。

従来,光が照射された半導体では,異なる時間スケールで起こる2つの現象があると考えられてきた。最初に電子が光エネルギーを吸収して励起する過程が起こる。この過程はあまりに速く起こるため,原子は動くことができない。

今回の実験で,電子の励起によりシリコンのバンドギャップが,光の照射後450アト秒以下の極めて短い時間で変化することがわかった。その後に起こるのは,電子が励起したことによって原子が再配置する過程で,これにより光エネルギーの一部が熱に変わる。

実験では,この過程が50~70フェムト秒の時間で起こることが観測された。このように,2つの過程を明瞭に区別して測定することが可能となった。

実験でナノメートルの微小な世界で電子がどのように動いているのかを直接観測することはできない。電子が励起されるメカニズムを理解するために,スーパーコンピュータを用いた第一原理計算によるシミュレーションで,レーザパルス光により電子が励起される様子を時々刻々と調べ,実験で見られる励起プロセスの特徴を再現。電子の励起が量子トンネル過程で起きていることを明らかにした。

図は,電子の密度分布が光の照射中,照射後に,どのように変化するかを計算した結果。シリコン結晶にレーザーパルス光を照射し(上),電子密度分布の変化を追った(下)。左は照射中,右は照射後の電子密度の変化を表している。赤い領域は電子密度が増加したことを,青い領域は減少したことを示している。

上記の実験と計算機シミュレーションにより,最も基本的な半導体であるシリコンにおいて,光の照射により極めて短い時間で電子がバンドギャップを越えて励起される様子を初めて明らかにした。

今回の光実験技術により,高速なためこれまで測定することができなかった固体物質中の電子の運動を直接撮影することが可能になった。また,計算機シミュレーションの方法を用いることで,ナノメートルサイズの空間領域で起こる固体物質中の電子の運動を調べることができた。研究グループは,最先端の光科学と計算科学が協力することにより,物質中で起こる様々な超高速現象を解明していくことが可能になるとしている。

関連記事「産総研ら,有機薄膜太陽電池の電荷の移動を妨げるメカニズムを解明」「東芝ら,超低消費電力マイコン向けに2種類のトンネル電界効果トランジスタを開発