阪大ら,世界最小熱伝導率の結晶シリコン材料を作製

JST戦略的創造研究推進事業において,大阪大学,東京大学,アルバック理工らは,極小なナノドット結晶を結晶方位をそろえて連結した材料を形成する技術を開発した。この技術によって,電気伝導率の悪化を抑えながら,熱伝導率を巨視的なサイズの結晶であるバルクSiの約1/200まで低減することに成功し,世界最小値を得た(ニュースリリース)。

廃熱エネルギーを電気エネルギーとして再利用するための熱電変換材料には,従来,レアメタルであったり,毒性を持ったりすることの多い重い元素を含んだ材料が使われており,より安価で環境に低負荷な材料が求められていた。

研究グループは,ナノドット結晶を結晶方位をそろえて連結することで,高い電気伝導率で低い熱伝導率という熱電変換の高性能化に必要な特性を,レアメタルを使わずに実現した。このようなナノドット構造は従来法では作製が不可能だった。

今回初めて作製可能となったナノドット連結構造は,Siナノドット結晶が1原子層からなるSi酸化膜に覆われており,酸化膜中に形成したナノメートルサイズの開口を通して連結している。この開口を通した接触により,ナノドット結晶の結晶方位がそろう。

このナノドット形成技術を応用することで,電気伝導率の悪化を適切に抑え,熱伝導率をバルクSiの約1/200まで低減することが可能となり,さらにSiの熱伝導率の世界最小値を得ることに成功した。

この結果は,地球上にありふれた,環境調和性の高いユビキタス元素であるSiを用いた高性能の熱電変換材料実現の可能性を示すもの。優れた電子素子材料であるSiが,高い熱電変換機能を持つことができれば,電子素子材料と熱電変換材料を融合した素子が作製でき,パソコンやサーバーから排出される廃熱を電気エネルギーとして再利用することができる。

研究グループはこの成果について,将来迎えるといわれるセンサネットワーク社会で,さまざまな場所に配置されるセンサーなどに組み込まれる電子素子へのエネルギー供給問題解決への糸口になるものと考えている。

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