東工大ら,ゴムのように伸び縮みする酸化物ガラスの作製に成功

東京工業大学 旭硝子共同研究講座らの研究グループは,ゴムのように伸び縮みする酸化物ガラスの作製に成功した(ニュースリリース)。複数種のアルカリ金属イオンを含有するメタリン酸塩ガラスが,ガラス転移温度近傍で,ゴム状物質に特徴的なエントロピー弾性を示すことを見出し,実現した。

研究グループは柔軟な長い直鎖状分子からなる有機ゴムに類似した構造を有する酸化物ガラスを検討し,直鎖構造を持つ混合アルカリメタリン酸塩ガラス「Li0.25Na0.25K0.25Cs0.25PO3」を,高温で引き伸ばし,直鎖を高度に配向させた後,加熱すると,エントロピー弾性に特徴的な吸熱を伴いながら,数十%もの巨大な収縮を生じて,元の無秩序な状態へ戻ることを確認した。

固体のガラス領域と液体領域の中間にあたるゴム状領域で引き伸ばすと,架橋点間の直鎖状分子が配列し,力を除くと配列が解け,元の不規則な構造へ戻りながら収縮する。この際,体積が変化しない,収縮時に吸熱するなどの特異な性質を示すことが知られている。

窓などに広範に使われている酸化物ガラスは,通常,各原子が網目状に強固に連なった構造を有するため,ガラス転移温度Tg以上で引き伸ばすと,網目の切断や組み換えによって永久変形が生じ、力を除いてもエントロピー弾性によって形状が回復することはない。このようなゴム状物質との構造的な違いによって,これまでにエントロピー弾性を示す酸化物ガラスは見出されていなかった。

今回,研究グループは有機ゴム構造を参考に,重合度が高く,共有結合性の高い直鎖が互いに緩やかに引き合った構造を有するガラス組成を検討した。その結果,複数種のアルカリ金属イオンを含有する混合アルカリメタリン酸組成「Li0.25Na0.25K0.25Cs0.25PO3」において,直鎖の重合度が増し,直鎖間の相互作用力が低下し,柔軟性が大幅に増加した。

このガラスは,室温では一般のガラスと同様に等方的で,硬く割れやすいが,ガラス転移温度Tg近傍で加熱し,引き伸ばした状態で冷却すると,石英やサファイアと同程度の複屈折Δnを示し,直鎖配向に起因した大きい異方性を発現することが分かった。

また,図の異方性ガラスをTg近傍で熱処理すると,複屈折の大きさに応じて長さ方向に最大35%程度収縮し,かつ収縮前後で体積がほとんど変わらないことが明らかになった。さらに,ガラスをはじめセラミックスや金属など多くの材料が,熱収縮する際に発熱を伴うのに対し,異方性ガラスは,吸熱を伴いながら収縮することも明らかになった。

以上より,有機ゴム構造を模擬したLi0.25Na0.25K0.25Cs0.25PO3ガラスは,直鎖配向による大きな異方性を発現するとともに,エントロピー弾性によって吸熱を伴いながら元の不規則網目構造へ戻る際に,これまでの酸化物ガラスでは類を見ない大きな収縮を示すことがわかった。

今回の研究で,室温では硬く割れやすい酸化物ガラスも,内部構造を工夫すれば高温でゴムのように伸び縮みする特性を発現できる材料であることを実証した。研究グループは今回の結果について,有機高分子のゴムでは対応できない高温下,酸化性などの条件下での応用が考えられるとしている。

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