東京大学大学院工学系研究科・准教授の加藤雄一郎氏と同生産技術研究所・教授の荒川泰彦氏らの研究グループは,一本の単層カーボンナノチューブ(単層CNT)から発生した光を推定効率85%以上でフォトニック結晶構造中に伝播させることに成功した(ニュースリリース)。
単層CNTはよく光る微小な物質として知られており,光通信に使われる近赤外光を発生し,集積回路に利用されているシリコン上で合成できるため,微小な光デバイスへの応用が期待されている。しかし,強く発光させるために宙に浮いた状態の単層CNTでは,発生した光を光構造中に伝播させる際の効率が低いという点が課題となっていた。
今回研究グループは,独自に開発したフォトニック結晶構造を用いることにより,単層CNTから発生した光を高効率に光構造内へと伝搬させることに成功した。屈折率の周期的な変化を利用するフォトニック結晶では,光の性質を柔軟に制御して微小な領域に光を閉じ込めることができ,微小光共振器が実現できる。
ただ,微小光共振器は,やはり微小なサイズである単層CNTから光を伝搬させる光結合に適しているが,従来の構造では光が屈折率の高いシリコン部分に閉じ込められていて高効率な光結合が望めなかった。そこで,新しいデザインを用いることで屈折率の低い空気部分に光が大きく広がっている構造とし,空気中に存在するカーボンナノチューブと光結合しやすくした。
この成果により,原子一層からなる微小な材料から発生した光を高効率で光共振器に結合できることを示すことができた。これは,ナノメートル程度の大きさのレーザなどの光デバイス実現に向けた重要な第一歩で,光をチップ上で制御する光集積回路の微細化に貢献する可能性があるという。
また,カーボンナノチューブでは通常の二倍の電流が発生する光電変換現象の報告もあり,今回の成果と融合させた高効率太陽電池への応用も期待できるとしている。将来的には,カーボンナノチューブ特有のスピンや量子物性を利用することにより,新しい機能を持った光デバイスの開発が期待されている。
フォトニック結晶微小共振器構造はシリコンを微細加工して作製しており,その片側に配置した触媒からカーボンナノチューブを合成して共振器に取り付ける。高感度な近赤外顕微鏡により,一本のカーボンナノチューブと光結合した共振器を判別し,数十個以上について調べたところ,設計通りに空気部分で光結合していることが明らかになった。また,光結合効率が約二倍以上と劇的に向上し,最も高いものでは 85%に達していると推定された。
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