岡山大学と理化学研究所の研究グループは,X線自由電子レーザ(XFEL)施設SACLAを用いて,光合成による水分解反応を触媒する光化学系II複合体の構造を,1.95Å分解能(1Åは1/1000万mm)で正確に突き止めることに成功した(ニュースリリース)。
光化学系II複合体とは,太陽の光エネルギーを利用して生物が利用可能な化学エネルギーに変換するとともに,水を分解し,生物の生存に必要な酸素を作り出している,19個のタンパク質からなる,巨大かつ極めて複雑な膜タンパク質複合体。
研究グループは2011年,日本の温泉由来のラン藻の一種から取り出した光化学系II複合体の良質な結晶を作成し,その構造をSPring-8の放射光X線を用いて1.9Åという分解能で解析した。しかし,X線結晶構造解析でのX線照射の間に,水分解反応を担う触媒中心の一部がX線による放射線損傷を受け,本来の構造とわずかに異なっている可能性があった。
今回,X線による放射線損傷の影響のない光化学系IIの本来の構造を解析するため,SACLAのX線自由電子レーザを利用した。X線自由電子レーザのパルスX線は,1パルスでX線回折写真を撮影できるほど明るく,かつ,1パルスの継続時間が100兆分の1秒と極めて短いため,X線による放射線損傷で分子の構造変化が起こる前に,X線回折写真を撮影することができる。
研究グループは,SACLAで開発した「フェムト秒X線結晶構造解析法」と世界最高品質の光化学系IIの結晶を作成する技術を組み合わせることで,光化学系II複合体の放射線損傷を受けていない本来の構造を,1.95 Å分解能で詳細に解析することに世界で初めて成功した。
今回の解析で明らかにした無損傷のMn4CaO5クラスターは,これまでSPring-8の放射光を用いて得られた構造よりも原子間の距離が0.1~0.3Å程度短くなり,触媒の本来の構造を反映している。この構造から,水分解反応の機構に関する新しい知見が得られたという。
光化学系IIの触媒中心であるMn4CaO5クラスターは周りのアミノ酸が協調的に構造変化することにより,周期的な5つの中間状態を経て極めて効率の高い水分解反応が行なわれているが,その動的メカニズムの詳細は不明なままだった。
今回の成果は,光化学系IIの反応周期の第一状態について反応性を維持したままの本来のMn4CaO5クラスターと周辺の構造を明らかにしたものであり,太陽の可視光エネルギーを利用した水分解反応を人工的に実現するための触媒の構造基盤を提供するもの。
研究グループでは,この反応を模倣した「人工光合成」が実現すれば,光エネルギーを高効率で電気エネルギーや化学エネルギーに変換でるとしている。
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