東北大ら,アモルファス合金のナノワイヤを開発し磁気センサの作製に成功

東北大学と東北学院大学のは共同で,ガスアトマイズ法を用いて,磁化されやすい軟磁性の特性をもつアモルファス合金(金属ガラス)から,直径がナノメートルスケールのナノワイヤを安価に生産し,これを用いてプロトタイプの磁気センサ素子を作製することに成功した(ニュースリリース)。さらに,外部の磁場によってインピーダンスが変化する磁気インピーダンス効果を確認した。

アモルファス合金は,理論的な限界値に近い高い強度を持つ。さらに,ランダムな原子構造のため,大きな荷重を加えても形状が回復しやすい高い弾性限界を示す。そのため,構造部材や圧力センサ等に利用しようとする研究が進められている。さらに,磁化されやすいという軟磁性のため,外部からの磁場によってワイヤのインピーダンスが大きく変化する磁気インピーダンス効果を持つことが知られており,これを活用した高感度磁気センサや電子コンパスなどが実用化されている。

ガスアトマイズ法は,粉体を製造する主要な方法だが,東北大学は,このガスアトマイズ法をベースに独自のワイヤ化技術を開発してきた。高温で溶解されたアモルファス合金を融点以下へ過冷却すると,粘性が増大して飴のような状態になり糸をひく性質(曳糸性)が現れる。今回,この状態でガスアトマイズを行なうことにより,ナノワイヤを作製した。

この手法の利点は,ナノインプリントやリソグラフィーなどの高価な手法を用いずとも,容易に大量のナノワイヤを束ねたナノファイバが作製できる点にある。白金合金系やパラジウム合金系を用いれば,触媒機能を持つナノファイバの大量生産も可能で,様々なアモルファス合金からナノファイバーを作製できる手法として着目されている。

コバルト鉄系アモルファス合金は,優れた軟磁性特性を持つことが報告されている。これまでのワイヤ作製法では,直径が20〜30㎛度が限界だったが,今回,独自のガスアトマイズ法を用いることにより,直径が100nm~3㎛程度の長尺なワイヤの作製に成功した。さらに,作製したワイヤを,集束イオンビーム法を用いて電極上へ固定し,プロトタイプの磁気センサ素子を作製した。

このデバイスを用いて,外部磁場を変化させながら,ワイヤのインピーダンスを計測したところ,外部磁場に応じてインピーダンスが変化することが明らかになった。更に,インピーダンスのピーク位置も周波数に応じて変化することも観測された。このピーク位置の周波数依存性は強磁性共鳴と呼ばれる。また,インピーダンス変化はGHz領域においても計測されており,従来の周波数特性と比較すると,1000倍以上の応答速度が得られること示しているという。

研究グループは今後,更に高い磁気検出能が得られるような合金の探索や,そのナノワイヤ化を進めると共に,磁気マッピングが得られるよう素子の高密度化を試みるという。また,生体磁気計測を視野に入れた研究を進め,これが実現すれば安価な心磁,脳磁計測機器の発展が期待できるとしている。

関連記事「首都大ら,カーボンナノチューブ中に酸素分子を入れた磁性ナノワイヤを製作」「東海大, 極細電極で口や鼻の水素イオン濃度を測定するセンサを開発」「産総研,アモルファス金属酸化物の原子構造の解析に成功