東工大,金属電極間に架橋した単分子の電気伝導度を機械的に制御することに成功

東京工業大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構の研究グループは,金属電極間に架橋した単分子の電気伝導度を,機械的な力で多段階かつ可逆的に制御することに成功した(ニュースリリース)。

この研究では,電極金属と分子の接合界面の構造を機械的な力によって制御することで,電気抵抗を変化させる単分子スイッチの開発を行なった。分子としては,チオフェン環が4つ連結した被覆クオーターチオフェン分子(QT)を用いた。QT分子は,両端に電極との結合サイトとなる硫黄原子を対称的に2カ所ずつ有しているため,最大で3つの結合の仕方が可能となる。そして,中心部分を被覆することで,分子が積層してしまうことを防ぎ,接続箇所を規定している。

実験はQT分子を含む溶液中で走査型トンネル顕微鏡を用いて,金(Au)の探針とAuの基板を接触,破断を繰り返すことで行なった。基板との接触後,金属の接点が形成されるが,それを引き離すことでAuのナノギャップが形成され,分子がナノギャップ間にトラップされる。電極間距離を制御することで,架橋分子数,架橋様式を制御することが可能となる。

QT溶液中でAu接合の破断過程における伝導度を測定したところ,3つの伝導度状態が観測された。それぞれの構造について,AuナノギャップのサイズおよびQT分子内の硫黄原子間の距離を定量的に評価することで,QT分子の電極への架橋位置に応じて,QT単分子接合が3つの伝導度を示すことが明らかとなった。

さらに,QT単分子接合が形成されている状態で,電極間距離を変調させ,接合の伝導度を観測した。その結果,接合の伝導度が3つの値を可逆的にスイッチする様子を観測することに成功した。

今回開発した単分子素子スイッチは,金属と分子の接合形態を制御するという,新しい動作原理に基づくもの。研究グループは,今回,単分子接合に特徴的な物性を機能という形で具現化することが出来たので,今後,スイッチに限らず様々な機能を実社会に役にたつデバイスの形で応用することが可能になると考えている。そのために,個々の素子の性能の向上,また特に集積化の技術開発がますます重要になるとしている。

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