京大ら,「ボース・アインシュタイン凝縮に最も近い超伝導状態」を実現

京都大学,理化学研究所,物質・材料研究機構,独カールスルーエ工科大学の研究者らは共同で,鉄を含んだ金属間化合物において「ボース・アインシュタイン凝縮に最も近い超伝導状態」が実現し,さらにこの物質が強磁場中で別の超伝導状態に移り変わることを発見した(ニュースリリース)。

金属中の伝導電子は,通常,数万度という高い運動エネルギーを持って飛び回っている。一方,超伝導は,二つの電子の間に引力が働き,電子のペアが形成されることによって生じる。通常の超伝導物質では,電子の運動エネルギーは,ペアを作ろうとするエネルギーよりも圧倒的に大きいことが知られている。

逆に,電子がペアを作るエネルギーが強くなった極限では,強く束縛された分子状のペアが作られ,ペア同士は互いに弱く相互作用した状態で超流動や超伝導を起こすことが示唆されている。

この現象は「ボース・アインシュタイン凝縮」と呼ばれている。この二つの中間状態では,ペアの大きさと電子の平均間隔が同程度になっている。この状態ではペア同士の相互作用が非常に強くなると考えられ,非自明な量子状態が実現される可能性があることから興味が持たれている。しかし,これまでの実際の超伝導物質では,ボース・アインシュタイン凝縮に近いような状態は発見されておらず,また,そのような超伝導でどのようなことが起こるかも分かっていなかった。

今回,研究チームは,鉄を含んだ金属間化合物FeSeの電子状態と超伝導状態を,新しく開発した純良な結晶を用い,走査型トンネル顕微鏡法/分光をはじめとした様々な実験手法により調べることに成功した。その結果,電子の運動エネルギーとペアを形成するエネルギーがほぼ同じであり,この物質ではこれまでのどの物質よりもボース・アインシュタイン凝縮に近い超伝導が実現していることを発見した。

さらに,このような異常な超伝導において,低温・強磁場中での性質を調べ,電子の運動エネルギーと,ペアを作ろうとするエネルギー,さらに磁場のエネルギーが同程度になることで,三つのエネルギーの競合が起こり,新しい超伝導状態が実現することを発見した。

今回発見された超伝導状態は,これまでの物質で実現されたことのない量子状態であると考えられ,この状態を詳細に調べることにより,新しい概念が得られることが期待されるという。

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