産業技術総合研究所(産総研)とイノアックコーポレーション(INOAC)は共同で,真空断熱材に近い性能で,加工や曲面への対応が可能なポリプロピレンとシリカエアロゲルからなる複合断熱材を開発した(ニュースリリース)。
高性能な断熱材としては真空断熱材が良く知られているが,自在な加工は困難であり,性能の持続性や曲面への対応にも問題がある。一方,極めて低密度なシリカゲルであるシリカエアロゲルを,不織布やポリマーなどと複合化した材料が実用化されている。これらは真空の維持が不要で加工性に優れるが,シリカが崩れて崩落する“粉落ち”の問題が指摘されており,普及の妨げとなっていた。
今回の複合断熱材には,INOACが開発した,両面にスキン層を持つ,高圧CO2によるポリプロピレン発泡体シートを利用している。このポリプロピレン発泡体の内部に,ゾルゲル法によって低密度のシリカ湿潤ゲルを作製した後,CO2による超臨界乾燥を行なってシリカエアロゲルを形成させた。
乾燥条件を選択して,ポリプロピレン発泡体には影響を及ぼさず,ゲル内部の溶媒だけを除去することで,ポリプロピレン発泡体の内部にシリカエアロゲルを充填した複合断熱材が作製できた。ポリプロピレンは化学的安定性に優れ,また汎用のポリマーとしては耐熱性が高いため,幅広い用途での利用が期待できるという。
ポリプロピレン発泡体は柔軟性が高いことや,シリカエアロゲルが圧縮により変形可能であることから,今回開発した複合断熱材は曲面に対応する形状にできる。また,これまでのシリカエアロゲルでは,切り口が崩れるために刃物での加工は困難であったが,今回の複合断熱材では刃物による加工も容易。
複合断熱材の揉み試験による粉落ちの比較を行ったところ,スキン層のないポリマー多孔体とシリカエアロゲルの複合断熱材では,シリカ崩落により9.7~27%の重量減少が見られたのに対し,今回の複合断熱材では2.1%であり,粉落ちが大幅に減少することがわかった。
今回の複合断熱材の熱伝導率は0.016 W/mKで,グラスウール(0.04~0.05 W/mK)や発泡ポリスチレン(0.03~0.04 W/mK)などの一般的な断熱材より優れ,真空断熱材(0.01 W/mK)に近い熱伝導率を示した。また,吸湿による劣化が少なく,断熱性能や形状の長期安定性にも優れているという。
産総研らは今後,低コストの製造プロセスを開発するとともに,高性能断熱材の普及展開を図るため,各種用途へのサンプル出荷に向けた体制作りを行なう。また,今回開発した複合断熱材は断熱性能の安定性,ハンドリング性の良さから,断熱材の評価用の基準的な試料にできる可能性があり,基準試料用途への展開も検討するとしている。